「野球で人生を切り拓く」貯金を切り崩しながら独立リーグで奮闘、文武両道の野球青年が描いた未来




卒業、就職、結婚…普通の人生は思い浮かばなかった野球青年

前列一番左が土屋

中米グアテマラと聞いてその国をすぐに思い浮かべることのできる人は多くないだろう。スポーツの世界ではあまり目立つことのない国だが、ソフトボールが結構強いらしい。そんなグアテマラにウィンターリーグがある。未知のこのリーグでこの冬は、6人の日本の若者がプレーした。元プロ野球選手を祖父に持つ土屋剛もそのひとりだ。

高校時代は千葉の名門、習志野高校で甲子園を目指した。甲子園の夢は叶わなかったが、文武両道の彼は、指定校推薦で東洋大学に進学。ここには、プロ野球選手を輩出している野球部があったが、プロ野球選手になる自分をイメージできず、準硬式で勉学と両立したキャンパスライフを送ることにした。

野球漬けだった高校生活と違うそのキャンパスライフは、土屋の視野を広げた。『体育会系』以外の学生との触れ合いにより、将来の選択肢は思った以上に多いことを土屋は知った。

「留学生とゼミで喋ったりすると、その人が30歳だったりするんです。そういう人生ってどういう感じだろうって興味が湧きましたね」

そんな中、また別の出会いもあった。

「自分のバッティングをよくしたいなってSNSでいろんな人を見ていたんです。そしたら、ポーランドでプレーされていた日本人の方がとても参考になって、それで日本に帰ってきている間に会いに行ったんです」

この出会いがきっかけで、野球をプレーする場は世界中にあることを知った。

「そこからですね。野球を使って自分の人生を切り拓くってことが、ぼんやりと頭に浮かぶようになったのは」

大学生活はあっという間に過ぎた。所属連盟の1部にいた準硬式野球部は、2部に落ちてしまった。この野球部では現役生活は通常3年までで、その後は就職活動に入るのが常だったが、後輩たちからの要望もあり、土屋は捲土重来を期して部に残ることを決意した。

しかし、4年の春はコロナ禍でリーグ戦が中止、秋に優勝を飾ったが、これもコロナのせいで入れ替え戦は見送られた。シーズンが終わった時、就活にいそしんでいた同期たちは各々の進路に収まっていた。しかし、土屋には大学を卒業して、企業に就職し、2,3年で結婚し、家族をもつという「普通の人生」は思い浮かばなかった。

「就職活動は一応しましたよ。教育実習もしたんですけど」

結局、土屋は「野球を使って自分の人生を切り拓く」ことにした。ただ折からのコロナ禍にあって海外でのプレー継続は難しい状況だった。そんな時、たまたま目にした広告で北海道の独立リーグが選手を募集していることを知り、トライアウトを受験した。

結果は合格だった。2021年シーズンを土屋は北海道ベースボールリーグで過ごすことになった。独立リーグは、プロ(NPB)を目指す場所なのだが、当初土屋にはその気持ちはなかった。自分がその舞台に立てるとは思えなかったからだ。

◆長野で挑戦を続行