極限力比べに挑むフルート奏者、3度目の正直で掴んだ全日本V「限界をつくらないで自分がどれだけ行けるか。ワクワクしています」【上原麻衣(後編)】 




他者からの評価がすべての世界で戦う、フルート奏者の上原麻衣さん。記録勝負であるベンチプレスは単純明快な自分との戦いであり、それこそが惹かれる所以でもあった。

フルート奏者とベンチプレス競技者という二足の草鞋を履く上原さんは、東京・ベルサール飯田橋ファーストにて開催された『第36回全日本ベンチプレス選手権大会』(2/17~2/18)で優勝を勝ち取る。その裏側には競技開始から試行錯誤を重ねた日々があった。

【フォト&リザルト】第36回全日本ベンチプレス選手権大会Day1ダイジェスト

――2月には第36回全日本選手権に出場し、M1女子57㎏級で優勝を収めました(一般女子は3位)。振り返っていかがでしたか。

「ベンチプレスを始めて2年半になりますが、全日本選手権に出るのは今回で3回目なんですよ。今は、3度目の正直でようやくメダルを持って帰れた感覚ですね。しかも、今回は自己新記録の92.5kgを挙げることができたので満足です。次は世界大会に出ようと思っていますが、それに向けてのモチベーションにもつながる結果でした」

――今まで全日本選手権で入賞外だったところから、今回入賞できた要因はどういったところにあると思いますか。

「経験がようやく力に変わったのと、新ルールに適応できたのが大きいと思います。全日本選手権に初めて出たのが2022年で、最初は実力不足でまったく結果を残せませんでした。2023年こそはと思っていましたが、ルール改正にともなったフォームの変更に対応できず…。2024年になってようやく経験も新フォームも積み上げが活きてきて、優勝できたかなと思います」

――ルールの改正とは、試技におけるヒジの位置に関するものでしょうか。

「そうです。2023年1月から『バーが胸部または腹部まで下りた状態で両肘の下側が両肩中央と同じか、それより下げなければならない(JPAルールブックより)』というルールになったんです。ルールが変わる前はバーベルを降ろすときに胸に着けばよかったので、言ってしまえばブリッジ(ベンチ上で背中を反らし、胸を突き上げる技術のこと)を高く組める人が有利だったんです。背中が反っている時点で胸とバーベルの距離が近いわけですから。それではフェアではないということですよね」

――上原さんのフォームからしても、それは手痛い変更でしたね。

「はい。私もどちらかと言うとブリッジが高めなほうだったので、1年半くらいの間に身についたフォームからなかなか脱却できず、新ルールへの適応が遅れてしまいました。1年かけて新ルールを攻略でき、重量も挙げることができるフォームをコーチやジムの仲間と試行錯誤して、コツコツ練習してきたのが功を奏したかなと思いますね」

――ちなみに、経験が活きた点とはどんなところでしたか。

「本番の時に欲張らなかったことかと思います。今回、無理に重量にチャレンジしにいかずに確実に試技を1本ずつクリアできる重量を設定できたのはよかったです。メンタルも体の疲労度も適度に保ったことで、第3試技での自己ベスト更新(92.5kg)につなげることができたと思います」

――最後に今後の目標を教えてください。

「今後はフルート奏者としてもがんばっていくのはもちろん、ベンチプレスの選手としても世界一を狙いたいですね。あとは自分に限界をつくらずどれだけいけるか。ワクワクしています。それこそ本当に重い重量にどんどんチャレンジしていって、可能な限り記録を伸ばしていけたらいいなと思いますね」

取材・文/森本雄大
写真提供/上原麻衣