同じ姿勢を維持していると筋肉は硬くなり、ストレッチやバイブレーションで柔軟性が復活する この不思議な現象はなぜ起こるのか




ヒトの筋肉で、貝の性質に似た現象が起こっている?

前回は貝の平滑筋の「キャッチ収縮」について説明しましたが、そのメカニズムが明確にわかってきたのは2010年前後。意外と最近のことです。

きっかけとなったのは線虫(センチュウ)を使った研究でした。

線虫は遺伝子の構造が解析しやすく、古くから全ゲノムがわかっています。しかも1か月ほどで世代交代が完了するので、世代を超えた実験もしやすいという特徴があり、遺伝子の機能を解明する研究では格好の材料として長い間使われてきました。

線虫の体にはモノに絡みついた時に体壁を硬くして離れなくなる仕組みがあり、それには「トゥイッチン」と名づけられたタンパク質が関連していることがわかりました。そしてその後、貝の筋肉にも同じようなトゥイッチンがあり、それによってキャッチが起こることが判明したのです。

少し細かい話になりますが、このトゥイッチン分子は筋収縮が起こると筋細胞の中の「太いフィラメント」と呼ばれる構造と、「細いフィラメント」と呼ばれる構造との間をつないでしまうことがわかりました。そのため、いったん筋肉が収縮すると、その状態が維持されて「硬くなった」状態になります。

さあ、お待たせしました。ここからようやく人間の筋肉に話がつながっていきます。

このトゥイッチンというタンパク質は、ヒトを含めた哺乳類の筋肉(骨格筋)にある「タイチン」というタンパク質とアミノ酸配列が非常に似ているということがわかりました。そのため、「タイチンファミリー」というタンパク質の一群に属するものになっています。タイチンは筋肉の最小単位であるサルコメア(筋節)の中にあり、ゴムのような特性を持ち、サルコメアが過剰に伸ばされないように、伸張時に弾性力を発揮する働きを持ちます。

余談ですが、このタイチンは日本(とくに生化学の分野)では「コネクチン」とも呼ばれています。このタンパク質を日本で最初に見つけたのは丸山工作先生(故人)という筋生化学者で、発見時に「コネクチン」と名づけられました。ところが、ほぼ同じ時期にアメリカのワンという研究者が同じタンパク質を発見し、「タイチン」と命名しました。結局、どちらが先かは厳密にはわからないということで、いまでも2つの名前が存在しているという事情があります。

運動生理学や運動生化学の分野では「タイチン」を用いるケースが多いので、ここではタイチンを使ってお話しをします。

閑話休題。タイチンはきわめて大きなタンパク質で、その一部にトゥイッチンときわめて類似した部分があります。ということは、ヒトの筋肉でもキャッチに類似した現象が起きてもおかしくない、ということになるのです。