スターダムの女子プロレスラー・岩谷麻優の自伝的映画『家出レスラー』が5月17日より全国で公開される。この映画は、「スターダムのアイコン」と言われる岩谷の実話をもとにストーリーを構築。プロレスが題材だけに見る者を限定するかと思いきや、むしろプロレスを知らない老若男女、すべての世代にアピールできる作品となっている。
ポンコツ扱いされていた劣等生がプロレスを知り、プロレスを愛し、プロレスに夢中になっていく。そしてまわりの人たちに助けられ、他人の痛みを知り、人としても成長していく。プロレスを題材にした映画でありながら、必ずしも専門的知識を必要としない。生きづらさを感じるすべての人たちが共感できる、そして見た人みんなが元気になれる、痛快な人生逆転物語なのである。
平井杏奈演じるマユは、ある事件をきっかけに引きこもり生活を強いられる。他者との断絶期間は2年にも及んだ。が、ある日テレビで偶然プロレスを知り、プロレスの迫力に圧倒され、プロレスファンになる。そして女子でもレスラーになれると知り家出を決行、親に内緒で上京し旗揚げ前の女子プロレス団体・スターダムに入門した。しかし厳しい練習についていけず、さぼり癖もついていた。それでも旗揚げ戦でのデビューにこぎ着け、同期や後輩に遅れを取りながらも、やがてはチャンピオンベルトを巻くまでに成長する。
その過程は、基本的に岩谷が歩んできた道のりの再現だ。映画では現実の出来事とフィクションが入り混じっており、プロレスを知らない人には女子プロレス&スターダム入門編としても見ることができ、岩谷ファンならば現実と創作の差異を比較するのもおもしろいだろう。岩谷個人の物語と考えれば、あの事件やあの出来事まで描かれていたのには正直驚いた。が、直接の当事者でなくても彼女の心理に影響を与えた事項として、あえて避けては通らなかったのだ。
肝心な試合シーンにおいても、朱里をはじめとする現役レスラーの出演&指導で説得力を持たせることに成功。試合の場面を含め、岩谷を演じた平井のなりきりぶりが見事にハマったと言っていい。マユのコーチでもある流香GMを演じた現役レスラー・向後桃の好演も光っている。
ある意味衝撃のスタートを切る本作だが、全体的にはコメディタッチ。マユの妄想を表現するアニメパートも効果的で、試合会場でかかる岩谷のテーマ曲がそのまま使用されるのもファンにはうれしい。そのうえ、アレンジも加え映画音楽としても機能しているのだ。
マユ役の俳優・平井杏奈は岩谷の境遇に自分自身を重ね、オーディションに応募した。彼女は岩谷がプロレスを始めたのと同じくらいの時期にアイドルグループに加入、1期生として解散まで活動した。岩谷同様に劣等感を抱えながらも活動期間をまっとうしたという。この作品は岩谷の物語であるのはもちろん、平井杏奈という新進女優にとっての人生逆転物語にもなっている。そんな背景を知ったうえで見ると、また違った楽しみ方ができるかもしれない。
見れば必ず元気になれる。『家出レスラー』は今どき珍しい、万人にお勧めできるプロレス映画なのである。
【次のページ】『家出レスラー』完成披露試写会に臨んだ出演者たち