「ライフセービング」と聞いて何を思い浮かべるだろう。多くの人は、海水浴場で海を見守るライフセーバーをイメージするのではないか。
彼らが砂浜を駆け、海を泳ぎ、ボードを操って順位を競うアスリートでもあるということは、まだまだ日本では知られていない。そして、この2つは別々のものではない。
「根本にあるのは監視活動です。そこで必要になる力をトレーニングしていく中に、競技につながる要素が全部入っているんです」
そう話すのは、茅ヶ崎サザンビーチで監視活動を担う、茅ヶ崎サーフライフセービングクラブの猪又美佳さんだ。ライフセービング競技で鍛える「泳ぐ」「走る」「ボードを操る」といった能力は、単に試合で勝つためだけのものではない。その先には、海で誰かを救うという目的がある。
猪又さん自身、競技以上に大切にしているものがあるという。
「私はガードが好きなんです。海水浴場に来る子どもたちの笑顔を見たい。それが一番です」
競技を続けながら、海水浴場での監視活動にも立ち続ける。
「ガードをしないんだったら、ライフセービングを続けない」
それほど、猪又さんにとって監視活動はライフセービングの中心にある。一方で、ライフセービングへの入口は1つではない。海で監視活動するライフセーバーにあこがれて始める子どももいれば、競技から入る人もいる。
ジュニア世代では、水辺で安全に遊ぶ方法を学ぶ教育的な活動からライフセービングに触れるケースもある。茅ヶ崎サーフライフセービングクラブでは10名の子どもたちが所属している。
高校生になると海で活動するための資格を取得できるようになり、その先に実際の監視活動がある。他の競技を経て大学から始める人も多い。
ライフセービング競技には大きく分けて、海を舞台とするオーシャン競技、砂浜を舞台とするビーチ競技、さらにプール競技がある。この競技の面白さの1つが、それまで経験してきたスポーツを活かせることだ。
陸上競技経験者なら砂浜を走るビーチ種目、水泳経験者なら海でのスイム、さらにボードやサーフスキーなどのオーシャン競技などさまざまな種目がある。いろんなバックグラウンドを持った人が入ってきて、得意な競技を伸ばすこともできるし、新たな競技をゼロからスタートすることもできる。
猪又さんがライフセービングを知ったのも大学進学の時だった。大学の案内に掲載されていたライフセービング部の紹介を見て、「こんなのがあるんだ」と興味を持った。
もともと海が好きだったことに加え、海外でライフガードに助けられそうになった経験もあり、その記憶も、ライフセービングの世界へ踏み出すきっかけになった。
大学から始め、その後も長く競技と監視活動を続けてきた。前述の通り、ライフセービングにはさまざまな競技があるが、とりわけオーシャン競技は、単純な身体能力だけでは勝負が決まらない。
波、風、潮の流れ。同じ海でも、その日の状況によってまったく違う表情を見せる。
「体力がある、パワーがあるというだけでは勝てないんです」
波を読み、流れを感じ、その瞬間に最善の判断をする。それは教科書だけでは身につかない、何年も海に入り続けることで体に蓄積されていく経験でもある。だからこそ、ライフセービングは長く続けるほど深くなっていく。
そして競技で磨いた力は、勝敗だけで完結しない。誰かを助ける力へとつながっていく。
「ただスポーツをして、速さを競うだけじゃない。トレーニングした結果が、勝ち負けだけじゃなくて、人のためにつながっていることが、ライフセービングの大きな魅力なんです」
競技会では、選手たちが全力で順位を争う。だが、その根底にあるのは「人を救う」というライフセービング本来の使命だ。ライフセービングは、スポーツであり、救命活動であり、水辺の安全を伝える活動でもある。
だからこそ、勝った、負けた、速かった、遅かった――それだけでは語り切れない。海で鍛えた力を、人のために使う。そこに、この競技ならではの魅力がある。



