57kgの細型ミュージカル俳優が筋トレで10kg増量した理由 市民ジムからスタートした「舞台のための体」づくり




ミュージカルの舞台に立つパフォーマーに求められるものは多い。歌、ダンス、演技のスキルはもちろん、公演期間中は連日の体調管理も欠かせない。必要なのは、ただ細い身体でも、ただ筋肉量の多い体でもない。必要な時に鍛え、必要な時に休み、本番までコンディションを保つ。そして歌いながら軽快に動き、舞台上で存在感を発揮し、さらに翌日も、その翌日も同じように舞台に立てる体だ。

『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』『キンキーブーツ』『ジャージー・ボーイズ』などに出演してきたミュージカル俳優・大音智海(36)。20代の頃は「とにかく細かった」という。当時の体重は57kgほどで、筋力トレーニングも食事管理もほとんどしていなかった。そこから約10キロ増量し、食生活を変え、現在では役に合わせて体重まで調整するように。そんな大音が考える「舞台で使える身体」とは、どんな体なのだろうか。

【フォト】筋トレに励む大音

舞台は体のサイズが存在感に繋がる

「今って、細いのが正しいみたいな風潮がまだあるじゃないですか。でも舞台って生なので、舞台上における体の体積の大きさは、そのままオーラに比例するんですよ」

映像では細身の体型が映えることもある。一方、観客が生身の俳優を見る舞台では、体そのものの大きさが存在感につながることもある。細身だった大音に転機が訪れたのは、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』への出演だった。ドラァグクイーン役として華やかさと身体的な説得力を出すため、筋肉をつけて約10kg増量。その結果、周囲から「存在感が増した」と言われるようになった。

もう一つ、衣装の見え方についての変化にも気づいた。ミュージカルでは、スーツやジャケットなど西洋由来の衣装を着る機会が多い。胸や肩に筋肉がつき厚みが出たことで、それらの衣装がより映えることを実感した。

「胸板や肩幅があったほうがやっぱり似合う。ミュージカルをやる上では、ある程度の筋肉や体の大きさがあったほうが強い。細いことが正義では通じない世界だなと感じました」

とはいえ、大きければいいというわけでもない。歌いながら動き、踊り、芝居をするには、体全体を支える筋力と同時に、柔軟性や動きやすさも必要になる。

筋トレ前の細かったころの大音

役を獲得する前から筋トレを開始

本格的に筋力トレーニングを始めたのは、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』のオーディションを受けていた時期だった。特徴的なのが、役が決まってからではなく、合否が出る前から体づくりを始めたことだ。まだパンデミックの影響も残る当時、海外の演出家による審査を含むオーディションには通常以上に時間がかかっていた。

「こんな体づくり素人の僕が、受かりました、じゃあ2か月で最高の体をつくるぞ!っていうのはもうあり得ないと思ったんですよね。なので、もうオーディションの途中で、もう受かったことにしよう、そうじゃないと間に合わないと思って、1年前から体をつくり始めました(笑)」

目指したのは、ドラァグクイーン役として説得力のある肉体。

以前観た『キンキーブーツ』で、故・三浦春馬さんの鍛えあげられた美しい肉体に強い印象を受けたことも大きかった。仕事を通じて知り合ったドラァグクイーンやダンサーたちの体に対する高い美意識にも刺激を受け、「鍛えなければ説得力がない」と考えた。

最初に通い始めたのは、1時間50円ほどで利用できる市民向けのジムだった。そこで、後の体づくりを大きく変えるトレーナーとの出会いがあった。

「市民ジムに、とある若いトレーナーの方がいらっしゃって。その方に、『今度、帝国劇場で大きな役をつかめるかもしれないので、この体になりたいです』って本気のプレゼンをしたんです」

そのトレーナーは、2か月後に自身のジムを開業する予定だった。熱意を感じ取り、それまでの期間、週4回のパーソナルトレーニングをなんと無料で引き受けてくれた。

「『大音さんのモチベーションが高いのがわかったし、僕も教え甲斐があるし、再来月オープンするジムに向けての練習にもなるから、お互いウィンウィンだと思って帝劇で一番映える体を一緒につくりましょう』と言ってくださったんです」

そこで得たのは筋肉だけではない。

「筋トレって、仕組みを理解することが大事。胸を張るとここが使えなくなるから背中だけに効かせられるとか。体の構造を理解する工程を2か月みっちりできたので、今はそれを自分で再現できるようになりました」

現在は基本的に一人でトレーニングを行い、頻度は週1回程度。追い込むというより、筋肉に定期的に刺激を与え、維持することを目的としている。

(第2回に続く)

【大音智海次回出演作】
ミュージカル『BLACK BOX』 10/28〜11/1 @浅草九劇
作: Paul Hodge、訳・演出: 渋谷真紀子
詳細は⇒https://asakusa-kokono.com/sp/kyugeki/2026/07/id-15210

【Profile】
大音智海(おおと・ともみ)
早稲田大学文学部演劇映像コース卒業。代表作に『キンキーブーツ』『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』『ALTAR BOYZ』など。2025年、『ジャージー・ボーイズ』New Generation Teamで主演のフランキー・ヴァリ役を務め注目を集めた。また同作ブロードウェイ公演のオリジナルキャストとしてトニー賞最優秀主演男優賞を受賞したジョン・ロイド・ヤングのライブ(ニューヨークと東京で開催)にゲスト出演し好評を博した。
Instagram: https://instagram.com/tomomi_oto

文/鷲見由希子 写真/本人提供