『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』『キンキーブーツ』『ジャージー・ボーイズ』などに出演してきたミュージカル俳優・大音智海(35)に「舞台のための体」づくりを聞いていく今回のインタビュー。第2回は、食事や休について話してもらった。
体づくりは役づくりにも繋がる
『ムーラン・ルージュ!』では10キロ増量した一方、『ジャージー・ボーイズ』でフランキー・ヴァリを演じる際には、役のイメージに合わせて約5キロほど体重を落とした。同作品は、実在のロックバンド「ザ・フォー・シーズンズ」の歩みを描く作品。主役のフランキーは高音の歌声を武器にスターへと上り詰めていく中心人物で、16歳から往年までを演じなければならない。
「フランキーって、そんなにゴリゴリのマッチョじゃない。下町から出てきたイタリア系移民の少年っぽさや、弟感みたいなものを出したかったんです」
体は大きいほうが存在感は出る。それでも単に大きければいいのではなく、役に合わせて筋肉のつけ方や体重の増減を変える。ミュージカル俳優にとっての体づくりとは、トレーニングであると同時に役づくりにも直結している。
「声も筋肉」のため鍛えるのは全身
筋力トレーニングを続けるのは、見た目や役づくりのためだけではない。ミュージカルにとって基本中の基本であるスキル、歌にも大きく関係すると感じているからだ。
「声も筋肉なので。声は全身を使う。腹筋も背筋も必要です」
体の支えが弱くなると、声をまっすぐ伸ばしたり、細かくコントロールしたりするのが難しくなる感覚があるという。特に高音のロングトーンでは、体全体で声を支える感覚が重要になる。また、日常的に体を鍛えているかどうかは、将来的に年齢を重ねた時の声にも違いが表れると考えている。
「まっすぐ伸びる音、揺れない音こそ、実はあれって貴重で魅力的なんです」
筋力トレーニングを始めてからは、音域も広がりけがも減ったことを実感している。もともとは腰が弱くぎっくり腰も経験したが、筋肉がついてからは体が安定した。最近は「ムーラン・ルージュ!」でのハイヒールを履いて長時間動くような役でも、筋肉にしっかりと支えられている感覚がある。
本番前のルーティンは体を温める
本番前に必ず行うのが、軽いジョギングだ。
「体って、まず温めることが大事なんです。だから5分、10分ぐらい走ります。ストレッチをカットしてでもまず温めます」
劇場の広いロビーなどを使って軽くジョギングし、体を温める。それからストレッチや声の準備を始めるのがルーティンだ。一方、ミュージカル俳優の命である喉のケアで最も重視しているのは睡眠だという。
「喉って結局、睡眠で回復するんですよ」
最近は、就寝時に口が開くのを防ぐため、口閉じ用のテープも使っている。寝ている間に口が開きやすいため、以前は睡眠中に口が開くことで乾燥し、喉の回復が落ちる感覚があった。しかし、テープを使い始めてからは回復具合に大きな違いを感じているという。さらに、喉への負荷が大きい役を演じるときはアミノ酸も取り入れている。
「筋トレやってる人はみんなご存知だと思うんですけど、筋肉はアミノ酸で回復する。喉も筋肉なので、アミノ酸を摂取するようにしてます。あれ飲むと喉が回復しますね。でも高いので、差し入れでアミノバイタルとかいただくと飛び跳ねます。日常的というよりは、もっとフランキーみたいな喉が過酷な役をやっている稽古後とかに飲みます」
喉に違和感を感じたら早めに対処する。喉用の市販薬、プロポリススプレー、マヌカハニー、大根はちみつなども取り入れている。もう一つ、「これは自分しかやっていないと思う」と話すケアが、季節を問わずダウンジャケットを持ち歩くことだ。
「夏も持ってます。体が冷えている時は危ないなと思うので」
体を冷やさないことも、喉を守り、体調を維持するための習慣になっている。
食事は「一日に使える3発の弾」
筋トレを始める前は、野菜もタンパク質も不足がちで、かなり偏った食生活を送っていた。
「365日、納豆卵かけご飯を3食とか食べてました(笑)」
しかし、トレーナーから食事について教わったことで考え方が変わった。
「人間が一日に食べられる量って限られてる。だから、この3食は一日に3発しか使えない弾なんだ、と思うようになった」
一食を何に使うか。限られた食事の中で、タンパク質や野菜をどれだけ取れるかを考えるようになった。外食だけで必要なタンパク質量を摂取しようとすると出費がかさむ。そのため、現在では鶏肉などを使った自炊が基本になっている。食生活が安定したことで、大きな体重の増減もなくなり、日々の体調も安定した。
通年の習慣は就寝前の20分ケア
一年を通して欠かさないのが、就寝前の20分間。ストレッチと、フォームローラーを使用した筋膜リリースを毎晩行っている。
「これをやると血行がよくなって、そのまますぐ寝られるんです。寝られないことがない」
体の状態によっては整体も利用する。10年以上通っている整体師の存在は貴重で、ハイヒールを履いて3時間近く動くようなハードな作品では、毎週のように施術を受けることもある。全ては「何に代えても体を守る」ため。舞台俳優にとって、けがや体調不良による降板は仕事そのものに直結する。
2023年頃からはほぼ酒を飲まなくなった。高音を多用する仕事が増え、喉と体調を安定させるために酒をやめたところ、翌日に疲れが残りにくくなり、回復力が圧倒的に上がった。今ではアルコールは口にしない生活を続けている。
練習をしないために全力でゲーム
大音流の休むための努力も印象的だ。
2025年の『ジャージー・ボーイズ』では、アンサンブル(一人で複数の役をこなすこともある、作品全体を支える主役級以外の出演者)として公演に出演しながら、限定2公演で演じる主役フランキー役の稽古も並行していた。通常公演をこなしながら、それとは別に、喉への負荷が大きいフランキー役の準備もしなければならなかったため日常的に歌う量が多かった。本音では、さらに自主練をしたかった。しかし、そこであえて練習を止めた。
「台本とか楽譜を開くと歌いたくなるんですよ。だから家に帰って、全力で『モンスターハンター』をやっていました(笑)。そうしないと練習しちゃうから」
連日の本番に加え、限定公演のための主演稽古。さらに自主練習を重ねれば、喉を消耗してしまう。すでに90点できているものを91点、92点に上げるために無理をし、喉を壊して20点、30点に落としてしまったら意味がない。
「お客さんは90が92になったところで気づかないと思うんですよ。だったら、もう加点するのをやめよう。90点を守ろうって思ったんです」
そこで、帰宅後の空き時間は、ひたすら「自分を封じ込めるモンスターハンター」に全力で没頭した。練習を増やすことよりも、今あるパフォーマンスを維持することを優先した結果だった。
研鑽よりまず優先するべきは休息
長く舞台に立ってきた経験を通してたどり着いた答えは明確だ。とにかく休息を優先すること。トレーニングも練習も必要だが、体を壊して舞台に立てなくなれば、それまで積み上げてきたものが本番で出せなくなる。
「トレーニングや研鑽より、まず体調管理と休息。余力があったら、そこで練習する。この順番は絶対に間違えてはいけない。練習を犠牲にしてでも守らなきゃいけない体調が絶対にあります」
役をきっかけに体をつくり、食事を変え、声や回復まで含めて管理するようになって出した答えは、鍛えることだけではない。必要な時には練習をやめる。休む。今あるコンディションを守る。90点を92点にするよりも、90点を全公演を通して守る。
これもまた舞台に立ち続けるためのトレーニングであり、大音流のプロフェッショナリズムだ。
(第3回へ続く)
【大音智海次回出演作】
ミュージカル『BLACK BOX』 10/28〜11/1 @浅草九劇
作: Paul Hodge、訳・演出: 渋谷真紀子
詳細は⇒https://asakusa-kokono.com/sp/kyugeki/2026/07/id-15210
【Profile】
大音智海(おおと・ともみ)
早稲田大学文学部演劇映像コース卒業。代表作に『キンキーブーツ』『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』『ALTAR BOYZ』など。2025年、『ジャージー・ボーイズ』New Generation Teamで主演のフランキー・ヴァリ役を務め注目を集めた。また同作ブロードウェイ公演のオリジナルキャストとしてトニー賞最優秀主演男優賞を受賞したジョン・ロイド・ヤングのライブ(ニューヨークと東京で開催)にゲスト出演し好評を博した。
Instagram: https://instagram.com/tomomi_oto
文/鷲見由希子 写真/本人提供


