海で人の命を守るライフセーバー。その活動に西山俊は、大学時代から長く関わり続けてきた。競技者として日本代表を目指しながら、海水浴場では監視活動に立つ。
その間には消防士として、人命救助の現場に携わった経験もある。ふたつの現場を経験したからこそ、西山はライフセービングが持つ意味をあらためて感じたという。
「事故が起きてからではなく、事故が起きる前に防ぐことができる。そこにすごく意義があると思ったんです」
西山がライフセービングを始めたのは大学時代だった。高校までは水泳を続け、大学でも水泳部に入部した。
しかし、その環境から離れることになり、別の活動を探していた時に出会ったのがライフセービングだった。水泳で培った力を活かせることもありライフセービング部に入ったが、続けていくうちに感じた魅力は、競技としての面白さだけではなくなっていった。
「大学生の時は競技ももちろんがんばるんですけど、ガードとして人命に関わる活動でもある。そこにすごくやりがいを感じました」
大学卒業後、西山は消防士になった。水難救助にも携わったことで、「人を救う」という行為を職業として経験することになったが、そこでライフセービングとの大きな違いにも気づいた。
「消防は通報を受け、事故やケガが発生した現場へ駆けつけます。でも、到着した時にはすでに命が失われた現場に向かうこともあるんです。一方、ライフセーバーはその場所にいて、事故が起きればすぐに対応する。そして何より、危険を察知し、事故そのものを未然に防ぐことができるのはすごいことだと思います。消防を経験して、あらためてライフセービングって大事なんだなと感じました。事故が起きる前に防ぐことができる活動なので、長くこれからも続けたいと思っています」
現在は競技にも大きな比重を置く。海で泳ぎ、ボードを操り、砂浜を走る。ライフセービング競技ではひとつの能力だけが突出していても勝つことは難しい。
西山は海でのトレーニングに加え、ランニングやウエイトトレーニングなどを組み合わせ、朝晩体を動かす日がほとんどだ。仕事の前に海へ入り、仕事を終えてからふたたびトレーニングする。それほど体を鍛える理由のひとつが、ライフセービング競技特有の過酷さだ。1日の大会で複数種目に出場することも珍しくない。さらに海では、単純な体力だけでは結果を出せない。
「パワーがあるとか、体力があるだけでは勝てないんです」
波、潮、風。自然を相手にするオーシャン競技では、その日の海を読む力が勝敗を大きく左右する。どこから沖へ向かうのか。どの波を使って岸へ戻るのか。長く海に入り続けることで身につく経験も、選手の大きな武器になる。だからこそ西山は、ライフセービングを「長く強く」続けることに価値があると考えている。
社会人になると、競技を続けるハードルは高くなる。海の近くに住み、トレーニングできる時間を確保しながら仕事をする。競技を続けるために、仕事や住む場所そのものを考えなければならない選手もいる。それでも続けた先に、世界がある。
世界選手権ではプールと海、両方の競技が行なわれ、最初の2日間がプール、その後の2日間が海と、4日間にわたってレースを重ねていく過酷な戦いだ。今年の12月に南アフリカで開催される世界選手権の代表選手である西山が掲げる目標は明確だ。
「個人では決勝に進出すること。チーム種目では複数のメダルを獲りたいです。さらに国別の総合順位でも、これまでの成績を上回ることを目指しています」
そんな西山の長年の挑戦が、世界記録という大きな成果にもつながっている。2026年2月時点で、国際ライフセービング連盟が管理するマスターズ35歳区分のプール競技個人6種目すべてにおいて、世界記録を更新するという偉業を成し遂げ、その功績が認められ、日本ワールドゲームズ協会から表彰を受けた。
西山は2025年8月に中国・成都で開催されたワールドゲームズにもライフセービング競技の日本代表として出場し、日本選手団の旗手を務めた。
表彰式で西山は、ワールドゲームズがオリンピック正式種目ではない競技の国際総合競技大会であり、「第二のオリンピック」とも呼ばれていることに触れた。
そして、その舞台にライフセービングが選ばれている意味について、こう語った。
「もちろんライフセービングスポーツの競技性もそうなんですけれども、普通のスポーツの勝ち負け、それ以外の、もしくはそれ以上の、命を救うスポーツとしての価値を認めていただいているのかなと思っております」
世界記録を打ち立てた競技者でありながら、西山が大切にしているのは、ライフセービングが本来持つ人命救助という役割だ。その言葉は、かつて消防士として救助の現場に立ち、事故を未然に防ぐことの大切さを実感した経験とも重なる。
さらに西山は、2029年にドイツ・カールスルーエで開催される次回ワールドゲームズや、2032年ブリスベンオリンピックでのライフセービング競技の正式採用を目指す動きにも言及した。
「その勢いとか流れに負けないように、日本から、ライフセービングスポーツというのを一緒に皆さんと盛り上げていけたらいいなと思います」
自身の記録だけでなく、競技全体の未来にも目を向ける西山。その思いは、次の世代へと向けられている。最後に自分たちより若い世代へ伝えたいことを聞いた。
「僕らが体現していると思うんですけど、いつまでも伸び続けられる競技だと思います。学生で終わりとか、20代で終わりじゃなくて、そこからでも伸びる。だから長く、強く続けてほしい。また、海に入るライフスタイルって、すごくいいものだと思うんです。ぜひライフセービングを楽しんでほしいですね」
速く泳ぐために鍛える。勝つために海を読む。世界と戦うために体を追い込む。だが、その力は競技場だけのものではない。
その先には、人の命を守るというライフセービングの原点がある。事故が起きてから救うだけではなく、事故を起こさせない。消防士として人命救助の現場を経験した西山だからこそ、その意味を知っている。



