『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』出身の世界王者&村田諒太を支えた「見るトレーニング」
飯田覚士氏(以下、敬称略)が指導するビジョントレーニングとは、見る力を総合的に高めるトレーニングのこと。
見る力すなわちビジョンは、いわゆる視力のことではなく「ものを見る仕組み」のことで、実に様々な要素が含まれている。それを「見直す」ことは生き方を見直すことに直結する。「人間は情報の80%以上を視覚から得ている」という説を聞くと、誰でも見る力の重要性を再認識するだろう。そして、目も筋肉(眼筋)のはたらきで動いているのだから、「目の筋トレ」が必要になってくる。
飯田は、現役時代に早くからトレーニングを続け、「ビジョントレーニングをやったからこそ、世界王座に就けた」と公言し、アスリートから一般人、子供から高齢者まで広く指導している。
WBA世界ミドル級チャンピオンの村田諒太選手も飯田氏の指導を受けて、ビジョントレーニングの恩恵を受けている一人。世界王者になる前の2015年から取り入れている。
「パンチを見切る力、判断力、自己統制力を、このトレーニングが教えてくれました」
と、効果を実感している。(『人生を変える「見る力」〜集中力、観察力、イメージ力が高まる目のトレーニング』(飯田覚士著・マキノ出版:推薦文)
まずは博士にビジョントレーニングのひとつを体験してもらった。飯田のジム「ボクシング塾ボックスファイ」のジムに設置してある、スープリュームビジョンという機器でのトレーニングにトライ。
この青色のボードの前に立ち、不規則に配列されたボタンが光るとそれをすばやく押す、この連続だ。ボタンをちゃんと押せたら次のボタンが光る仕組みで、光る順番もランダムだ。少し「モグラたたき」を連想させるシステムだが1分間でどれくらいボタンを押したか、スコアが表示される。
これは目と体の協調運動を見るものだ。人間の動作はいつも「目」がリードし「体」でコントロールしている。視覚情報が正確で体との協調性が高いほど、動きの確実性がUPするのだ。
博士がスープリュームビジョンのスイッチを押してスタート! 博士は点灯したボタンを両手で快調に押していく。ただし、自分の体の中心から遠くなると少し光の確認が遅れて、苦戦している感じが伝わってくる。そしてタイムアップ! ポイントは……68!
——飯田さん、アスリートではない一般人のスコアとしてどうですか?
飯田:う~ん、良くは……ないですね。
一般人の平均値は85~90という。期待した評価ではなかったので、博士や取材スタッフは拍子抜け。
飯田:ただ、博士さんはメガネ(黒い太めのフレーム)をかけてやられましたが、その場合はフレームが邪魔になってどうしても周辺視野が狭くなりがちなんですね。だから、メガネなしでやった方がポイントは上がると思います。
では、アスリートのレベルではどうなのか? 飯田氏に見せてもらった。と言っても、飯田氏は現役引退から約20年経っているのだが……。
スタートとともに、飯田はすごいスピードで実に軽やかにボードのボタンを連打する! さすが元世界チャンピオン、ボタンを押す動作が敵を突き刺すジャブに見えてくる。そして、1分間で終了。スコアは……140! 博士の倍速だ!
博士との違いを観察すると、博士はボタンの点灯に気づくと目と顔を動かして光を追うのだが、飯田は顔を動かさない。それだけ広い視野とスムーズな眼球運動で見ているのだろう。
博士:凄い!! 飯田さんの高速の動きの残像があるから、まるで千手観音のように見えましたね(笑)。
飯田:スコアはトレーニングによって向上します。村田諒太選手がトレーニングを始めた頃は、ジムのフィットネス会員さんに負けていました。でも、今は150ポイントくらいを出せますから。ビジョントレーニングは、他にもいろいろなトレーニング法があります。
博士:正直、ボクは55歳で老眼もキツいし、目の老化問題は目下の課題です。目のトレーニングは誰にとっても大切だというのは実感として分かります。
飯田:僕自身が現役の頃、ビジョントレーニングを始めて、半年程したらボクシングのトレーニング以外の、明らかにプラスアルファのもので上達しているなと実感しました。相手のパンチが見えたんですね。ボディへのパンチも楽に打てるようになった。それまでぼんやり見えていた程度だったのに、相手のどこが空いているか、どこがガードされているか、瞬間的にわかった。スパーリングパートナーの顔を見ているのに、今、腹が空いている!と見えて、ボディパンチがうまく打てました。
博士:ボディが瞬間的に空いているかどうかなんて、テレビで客観的、俯瞰的に見ていても、なかなかわからないものですよ。
飯田:離れていればそれなりに見えますが、正面の接近戦になると、ボクシンググローブと腕でお互いの視界をさえぎっているし、脇腹が一番見えないんですね。でもそれが見えるのが、視野の広さなんだなと感じました。
見る力の大切さを日頃から実感している博士は飯田の話を興味深く聞く。話は20数年前、飯田がボクサーだった頃にさかのぼった。
博士:飯田さんは『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ)の『ボクシング予備校』出身。今の若い人には通じないかもしれないけれど、ボクシング好きな若者を募集して、元世界王者から指導を受けてプロを目指す様子を追いかけるという、格闘技リアリティショーの先駆けですよ。まさか、その企画からホントにチャンピオンが生まれるとは思ってもみなかった。このジャンルは、そんなに甘いもんじゃないだろう、と。
飯田:(笑)。ボクシングは大学に入ってから始めたスポーツでそれまでは卓球をやっていました。番組ではプロボクサーになりたい者を募集していたので、番組の趣旨とずれるけど、趣味でやっていたし、青春の思い出作りに良いかな、と思って応募したんです。
博士:テレビの演出が効かない世界なので、正直、長く続く企画だと思いませんでした(笑)、『ボクシング予備校』では飯田さんと松島二郎さんという人がライバル関係になって、視聴者は飯田派・松島派に分かれたんだよね。まあ、女子は圧倒的に飯田派。番組内でだけならまだしも、2人とも後に、プロボクサーとして大活躍して、全日本新人王決定戦の決勝戦で激突することになった。飯田さんが勝ったんだけど、それで終わらずに2年後の日本王座決定戦(日本スーパーフライ級)で再戦して、飯田さんがまた勝つという、誰も思ってもみなかった劇的すぎるストーリーですよ! そして飯田さんが世界チャンピオンにまで上り詰めるなんて、信じられない展開だった!
飯田:でも、僕は最初の世界タイトル挑戦に失敗してしまいました。その後、ビートたけしさんにご挨拶に行って、たけしさんからいただいた言葉がきっかけで『見る力』に気づくことができました。
(第2回につづく)
1986年にビートたけしに弟子入り、翌年、玉袋筋太郎と「浅草キッド」を結成。芸人としてはもちろん、文筆家としても精力的に活動。『藝人春秋2』(文藝春秋)『博士の異常な健康―文庫増毛版』 (幻冬舎文庫)など著書多数。日本最大級のメールマガジン『水道橋博士のメルマ旬報』の編集長、またユーチューバーとしても絶賛活動中。
第9代WBA世界スーパーフライ級チャンピオン。日本視覚能力トレーニング協会代表理事。2004年、「飯田覚士ボクシング塾ボックスファイ」を設立し、ビジョントレーニングと、体幹トレーニングを融合させたオリジナルプログラムを開発。プロボクサー村田諒太選手の目のトレーニングを指導している。http://www.boxfai.com/
取材・押切伸一/撮影・佐久間一彦