順番が違うと努力が報われないことも…
ダイエットをしたいなら有酸素運動だけではNG。筋トレも組み合わせることで、有酸素運動の効果も倍増する。と以前のコラムで書きました。
じつはここで大きな問題があります。それは筋トレと有酸素運動を1日で行う場合の順番です。
①筋トレ→有酸素運動
②有酸素運動→筋トレ
みなさん、どちらが効果的だと思いますか?
答えは①です。というより、本気で効果を求めるなら①の選択肢しかありません。
①の順番で運動した場合、脂肪の代謝が格段に上がることを私たちは実際に研究で確かめています。一方、②の場合、どんなに成長ホルモンやアドレナリンの分泌を強く促す筋トレであっても、これらの脂肪分解ホルモンの分泌がほとんど起こらず、脂肪も分解されなくなるという結果が出ました。これはある意味、衝撃的でした。
なぜ、そうなるのでしょうか。
有酸素運動を行なうと交感神経を介して血中のアドレナリンが増えます。そしてスタートから15~20分ほど経つと、血中の「遊離脂肪酸」が増えてきます。これは脂肪の分解によって生じ、エネルギーとして利用されるために血中に放出されてくる物質。ここまではよい効果なのですが、遊離脂肪酸は脳下垂体に働きかけ、成長ホルモンの分泌を抑える働きがあります。
成長ホルモンは脂肪の分解を促すので、別名“やせホルモン”とも呼ばれています。筋トレをがんばっても②の順番を選んでしまうと、その分泌が抑えられてしまうのです。それではせっかくの努力が報われません。
準備運動(ウォーミングアップ)として10分程度の有酸素運動を行なうくらいなら問題ありません。ただ、60分を超えるような有酸素運動を筋トレ前に行なうのは避けたほうがいいでしょう。
①の順番を選んだ場合、最初に筋トレでアドレナリンと成長ホルモンが分泌されることで、やはり遊離脂肪酸が血中に溶け出してきます。それは脂肪が燃えやすい状態になっていると言えるので、その後に有酸素運動をスタートすると効果が大幅にアップします。
60分間の有酸素運動を筋トレ後に行なうと、最初から有酸素運動を行なうよりも脂肪代謝が20%も上がるという研究結果もあります。この差は非常に大きいと言えます。
トレーニング内容と費やす時間が同じなら、効果は高いほうがいいに決まっています。それが行なう順番だけで変わってしまうのですから、このデータを活用しない手はありません。
※本記事は2018年に公開されたコラムを再編集したものです。
1955年、東京都出身。東京大学名誉教授。理学博士。専門は身体運動科学、筋生理学、トレーニング科学。ボディビルダーとしてミスター日本優勝(2度)、ミスターアジア優勝、世界選手権3位の実績を持ち、研究者としても数多くの書籍やテレビ出演で知られる「筋肉博士」。トレーニングの方法論はもちろん、健康、アンチエイジング、スポーツなどの分野でも、わかりやすい解説で長年にわたり活躍。『スロトレ』(高橋書店)、『筋肉まるわかり大事典』(ベースボール・マガジン社)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など、世間をにぎわせた著作は多数。