女子の皆さん、ムキムキにはならないので安心してください【髙田一也のマッスルラウンジ 第51回】木下まどかさん②




大好評「マッスルラウンジ」。今回はコーナー初の女性ゲストとして、東京大学大学院助教の木下まどかさんが登場。格闘技のバイオメカニクスの研究に従事する傍ら、テコンドー選手として活躍した経験を活かし、パラテコンドー委員会の委員も務める木下さん。2回目は、ウエイトトレーニングが他のスポーツに与える影響や、才能について語り合いました。

「筋肉をつけたら体が重くなると言う人たちもいて」(木下)
「自分はウエイトの素質がないと思っているんです」(髙田)

髙田:木下先生ご自身の筋トレは?

木下:授業の時に学生よりも張り切ってトレーニングをすることによって、自分の健康を維持しています。テコンドーって海外のナショナルチームの選手とかはけっこうトレーニングをしているんですけど、日本だとやっと最近フィジカルトレーニングを始めた感じなんです。柔道みたいに組み合うわけではないので、そこまでトレーニングをしなくても力負けがあまりないんですよね。階級制ですし。筋肉をつけたら体が重くなるみたいなことを言う人たちもいて、トレーニングをしている選手はあまりいなかったんです。自分は好きだったので学生の頃からやっていたんですけど。ウエイトトレーニングは基本的なことなので重要だと思うんですけど、我々のような打撃系はどちらかというと技術の練習に重点を置いていますね。

髙田:今おっしゃっていたように、海外の選手はけっこうウエイトを入れていますよね。その上でさらに動ける体にするための練習を積むという感じじゃないですか。だから海外の選手は強いのかなと前から思っているんです。筋肉が動きの邪魔になるなんて言いますけど、邪魔になるほどつかないですよ。そんな心配しなくていいんじゃないかと思いますね。

木下:筋肉で重量オーバーするくらいたくさんつけられるんだったら苦労しないですよね。

髙田:筋肉をつけるのは簡単じゃないですよ。ウエイトをすればパワーアップだけではなくて神経のトレーニングにもなると思うので、力を入れやすくなったり逆に抜きやすくもなると思います。動きに必要な筋肉をつけるという意味でも、ウエイトは効果が高いと思うんですよね。僕が教えているクライアント様にはゴルフをやられている方が多いのですが、みんなスコアが伸びていくんです。体幹が鍛えられるからですよね。しっかり立てて自分の体重を支えられて、上半身の遠心力の動きをコントロールできるかというところがすごく大切だと思うので。そういうことって普段の生活にも活かされていると思うんですよね。たぶん競技をやられている方は、競技でものを見てしまうじゃないですか。競技も大切ですけど、普段の生活も大切だと思います。普段の生活で健康をキープするには、ウエイトトレーニングが重要だと分かってもらえればいいなと。競技を邪魔するわけではないですし、もしかしたら競技のパフォーマンスアップにもつながるかもしれないですし。そこが一致すると、もう少しウエイトが大切に思ってもらえるかなと思うんですけど。

木下:学生の女の子だと、ウエイトをやると腕が太くなるのが嫌だと言いますね。

髙田:女子はだいたいそこですよね。ムキムキになりたくないんですとおっしゃるんですけど、そう簡単にはならないです。筋肥大するのはそれだけ大変なんですよ。木下先生は運動以外にご趣味はありますか。

木下:1年くらい前からウクレレを始めたんです。1950年代、60年代のアメリカンポップスが好きで、それを弾き語りたいと思って。テコンドーの練習とトレーニングくらいで趣味がなかったんですよ。

髙田:1年やっているならけっこう弾けるんじゃないですか。

木下:楽譜を見れば何となく弾けるようになりました。今、住んでいるアパートの住人がみんな仲がいいんですけど、そこのお兄ちゃんたちがギターとかベースを弾けるので、みんなでセッションしています。

髙田:いいコミュニケーションですね。

木下:最近は筋トレクラブを始めました。家の前にスペースがあるんですけど、テラスのイスとイスを離してその上で腕立て伏せをしようとか。

髙田:変わったアパートですね(笑)。僕は昔バンドをやっていたんです。最初はベースで途中からボーカルになりました。ただ、あまりにも才能がなさ過ぎて向いてなかったかなと。バンドのみんながどんどんうまくなっていく中で、自分はあまり上達せずでした。ライブハウスで何バンドかでやる時は、リハーサルでお互いの腕を見せ合うみたいな雰囲気になるんですね。そこでうまいバンドを見ていて、これはかなわないなって。当時、自分たちが一緒にやっていたバンドって、いまだにメジャーでドーム規模で活躍している方々なので、最初から光るものがありました。

木下:才能という意味では、ウエイトトレーニングにも才能はありますか。

髙田:才能、素質はすごく大きいと思います。自分はウエイトに関して全然素質がないと思っているんです。ないからこそがんばってやらなきゃという気持ちなんですよね。海外のある人が言っていたのが、自分よりすごい人を見るといろいろな考え方をしがちだけど、そのすごい人はただがんばっているんだと考えろと言うんですね。自分もそういう考え方は好きで、素質とか大きなものはあるけど、それを考えないで自分のベストに持っていこうという気持ちで毎回トレーニングをしようと思っています。しかし、素質が大きく関与することは理解しています。人種的に見ても、アメリカ人と日本人では全然違いますからね。でも、彼らに近づきたかったらどんな食生活をすればいいかとか、すごい人たちがいるというのは逆にそこを目指す上で自分のプラスに変えられるのかなと思っているんですけど。

木下:髙田さんは食生活もすごく節制されているんですよね。

髙田:そうですね。でも、もう慣れてしまいました。もともと体調が悪い子どもだったので、このくらいやってちょうどいいのかなと。自分はいろいろなことに困っていましたし、それを解決してくれるものとして体を鍛えることはすごく大切だと行きついたんですけど、最初から健康的に恵まれていたらここまでできたかなと思うこともあります。もしかしたらもっとできたかもしれないし、気持ちの部分でここでいいやと思ったかもしれないし。指導をする上で、そういう考え方を教えていくのも自分の仕事だと思っているんです。17歳から70歳までのクライアント様を教えているんですけど、立場もさまざまじゃないですか。だけど、共通して伝わる何かがあるのかなと思っているんです。うちのトレーナーたちにもいつも言っているんですけど、ウエイトトレーニングと栄養の管理をすることは、その人たちの人生にとってすごくプラスだと思うんですよ。だからこそ自分たちの責任は重いと思うんです。そこでつまらないとかこれは意味がないことだとその人たちが思ってしまうような指導をしたら、その人たちの人生においてマイナスになってしまう。すごく難しいことだと思うんですけど、それがどれだけいいものかを認識できて、人に伝えられるかがトレーナーの一番大切なところだと思います。先生という立場は教えることを当たり前にできるのが最低ラインで、どうやったらその人をやる気にさせられるかだったり、その人にそれが大切なものかを伝えられるかという要素が加わって、いい先生と言えるのかなと思います。この仕事をするようになって子どもの頃を思い出すんですけど、自然と子どもがついていく先生っていたじゃないですか。反対に、この先生嫌だという人もいましたよね。そうすると、その先生が教えている授業もつまらなくなるんですよね。そういう意味では、最初のトレーナーが嫌だったからもうウエイトはいいですとなってしまうと、その人に対してすごくマイナスな感情を持たせてしまうことになるんですよ。

木下:私が教えているのは大学生なので、人生を変えるというまでにはならないかもしれないですけど、高校とか中学の先生はすごいなと思います。その子の人生にけっこうな影響を与えるでしょうから。

取材&構成&撮影・編集部

髙田一也(たかだ・かずや)
1970年、東京都出身。新宿御苑のパーソナルトレーニングジム「TREGIS(トレジス)」代表。華奢な体を改善するため、1995年よりウエイトトレーニングを開始。2003年からはパーソナルトレーナーとしての活動をスタートさせ、同時にボディビル大会にも出場。3度の優勝を果たす。09年以降はパーソナルトレーナーとしての活動に専念し、11年に「TREGIS」を設立。自らのカラダを磨き上げてきた経験とノウハウを活かし、これまでに多数のタレントやモデル、ダンサー、医師、薬剤師、格闘家、エアロインストラクター、会社経営者など1000名超を指導。その確かな指導法は雑誌やテレビなどのメディアにも取り上げられる。
TREGIS 公式HP
木下まどか(きのした・まどか)
佐賀県出身。筑波大学大学院博士後期課程修了。博士(学術)。2017 年より東京大学大学院総合文化研究科助教に着任。全日本テコンドー協会ではパラテコンドー委員会の委員として、主にパラテコンドーの普及、組織運営に従事。研究の専門は格闘技のバイオメカニクス。現在は、大学教員としてパラテコンドーの研究を進める傍ら、パラテコンドーの東京パラリンピック開催に向けた渉外活動に励んでいる。