美ボディ大会が盛り上がりを見せている昨今。ビギナーからプロレベルまで多様な団体が存在し、選手たちがこぞってエントリーしている。
研ぎ澄まされた肉体美、きらびやかな衣装……華やかなステージで輝く選手を見てうらやましさを覚える反面、絶対的な他者評価にさらされる世界で、どこまで幸せを感じられるのかは定かではない。
そんな思いが頭をよぎる中、とある夫婦に話を聞く機会があった。ふたりは似た境遇を抱えていた。東京・麻布十番にジムを構える仲座大貴さん、さみらさん夫婦は、パーソナルトレーナーであり元コンテスト選手だ。
夫・大貴さんはボディコンテストの選手として活躍し、一時期は団体公認のプロ選手を目指したこともあった。しかし、フィットネスを通して肉体美を追求、という喜びよりも、他者からの評価を受け「何者かになる」ことにとらわれていた。
「SNSでの発信も力を入れていて、フィットネスインフルエンサーを目指したこともありました。ただ、当時一緒にやっていた選手たちがどんどんプロになって、置いてけぼり感や嫉妬心がありました。好きだったトレーニングですら、やらないと誰からも応援されなくなってしまうんじゃないか……といった怖さもありました。一時期はかなり鬱っぽかったと思います」(大貴さん)
妻・仲座さみらさんは、学生時代にモデルを志したことがきっかけで、美を追い求めるようになった。細さを追求するあまり摂食障害を患い、健康とは程遠い生活を送った。その中でフィットネスに出会い、一時期は健康的な体に戻ったが、コンテストに出場するようになると人一倍の美意識が災いし、自分の評価を過剰に気にするようになってしまった。
「私たちが共通しているのは、心の弱さを『強くなること』で解決しようとしていたことです。自分に合わせたアプローチをしたり、それこそ休んだりすればよかったんですけど、それができませんでした。選手として最後のほうは、かなり無理してコンテストに出ていて、結果として体調を崩してしまいました」(妻・さみらさん)
もちろん純粋に目指す肉体美を追求し、そのこと自体に幸せを感じている選手も多い。ただ、トレーニングで自分を高める喜び、大会のステージに立つ喜びが「他者から評価される喜び」に変わってしまっている人は注意が必要なのだろう。仲座さん夫婦はお互いの経験を糧に、新しい道を進んでいる。
「体調を崩した期間にピラティスに出会って、フィットネスというくくりでも、みんなが同じ考えを持っているわけではないと気づけました。私の場合はフィットネスを通じて自分と向き合って、地に足をつけた生き方ができるようになりたい。そのための大切な時間になっています」(さみらさん)
「トレーナーをしていると、いろいろなフィットネスの在り方を感じられます。美しい体をつくりたい、重い重量を扱えるようになりたい、中にはヨガのポーズができるようになりたい、といった人もいます。自分も今はボディメイクだけではなく、いろいろな分野を勉強しています。本当の意味で『フィットネスで人生が変わった』と言えるようになりました」(大貴さん)
他人からの評価に縛られず、手放していく。自分の体の土台を整える。それぞれの目標に向かって楽しむ……。そういった形を見つけた仲座さん夫婦は「フィットネスを通じて元気になる」をテーマに、理想のジムを開設することに決めた(後編に続く)。



