プロレス解説者の柴田惣一さんが、実体験をもとに数々のエピソードを紹介していく連載「柴田惣一のよもやま話」。今回は、プロレスラーたちの夏の過ごし方について。
日本の夏は暑い。しかもジトジトと湿っぽい。もちろん「夏が好き」「これぞ日本の夏」という人もいるだろうが、大方は夏の暑さとの闘いに挑んでいるはず。レスラーは筋肉の鎧をまとっており、一般の人たちよりも苦しいバトルとなってしまう。

最近は年中、Tシャツに短パンというレスラーはあまり見かけなくなった。とはいえ、選手の夏のファッションは定番の軽装がほとんど。それもこれも汗対策の結果だろう。Tシャツの替えを何枚も用意している。
もっとも上半身はすぐに「いいっすか」と脱いでしまう者も多い。まあ、裸がイチバンなのは間違いない。それでも汗は流れてくるのだから「レスラーと汗」は切っても切れない関係と言っていい。
一般人でも汗には苦しめられるのに、筋肉量が多く、たくさん食べるレスラーは人一倍、汗対策には気を遣うことになる。何しろ人気商売である。汗臭いとなったら、嫌われてしまう。そこで香水を愛用する者も多い。
「炎の飛龍」藤波辰爾はアラミス。ライバルの「革命戦士」長州力はタクティクス。長州を支えた維新軍団勢も小林邦昭始め、長州と同じタクティクス愛用者が目立っていた。
誰がいたのか、残り香で分かったりした。試合後の控室も、その残り香で誰が、どの軍団が使用していたのか、想像できたものだ。
香水に加え制汗剤も必需品だろう。大相撲からプロレス入りした浜亮太は、わきの下によくクリクリしていた。スプレーだと周囲に飛び散る可能性があるので、ロールオンタイプの制汗剤を選んでいた。
浜の暑がりはズ抜けている。ある春の日の全日本プロレス道場でのこと。合同練習も終わり、浜が腕を振るったちゃんこ鍋を皆で楽しんだ後のまったりタイム。先輩選手は家路につき、道場住まいの若手選手ばかりとなった。

それまで静かだった浜が、おもむろに「暑いっすよね」とエアコンのリモコンを手にした。「やっぱ18度ですよね」と設定温度を最冷温度にしている。
どちらかというと花冷えの日で寒さを感じていたが、うなりをあげるエアコンから冷風がどんどん流れて来た。寒い、寒い。ここは南極か! だが浜にとってはまだまだの様子。エアコンの吹き出し口の真下に陣取り、暑い暑いと汗を拭き、制汗剤をぬりぬり。しまいには「このエアコン、効きが今一つじゃないですか」と不満げにつぶやく。
室温が下がったせいか、いつの間にか他の若手選手もいなくなってしまった。残された者同士「浜さん、本当に暑がりですね」と顔を見合わせるしかなかった。
「暑いっす」と繰り返す浜の周囲には、制汗剤のフローラルのさわやかな良き匂いが漂っていた。現在は群馬県前橋市で「どすこいうどん浜ちゃん」を営みながら、大日本プロレスで176センチ、200キロの巨体で暴れている。日々、ぬりぬりしているはず。
エアコンの設定温度に苦労するレスラーの話もよく聞く。家族との体感温度が違い過ぎるのだ。奥さんとの激しいツバ競り合いの末に、夫婦げんかになってしまうという。
一般家庭でもあるようだが、レスラーの家庭ではとにかく設定温度が桁違い。昨今はエアコンの性能も良くなっている。エアコンを取り換える時には、他の家電以上に熱心に情報収集に取り組むようだ。
汗対策といえばタオルも必需品。ファンのプレゼントも夏にはタオルが増える。バスタオル、スポーツタオル、フェイスタオル、ハンドタオル…さまざまなサイズのタオルが直接、ファンから手渡されたり、事務所や道場に届いていた。
「あそこのタオルは使いやすい」「海外のブランドものも良いけど、日本製の方が汗を吸ってくれるんだ」「老舗の製品はやはり違う」…やたらとタオル事情に詳しい者もいた。
スター選手の中には、たくさんプレゼントされ、自分だけでは使いきれない者もいた。若手選手に「これ、使って」と未使用のまま有効利用を心掛けていた。ただし、中には「これはOO円」と若手に渡し小遣いにする不届き者もいたとか、いなかったとか。
いずれにせよ、日本の夏はレスラーにとっては大敵。色々と対策、工夫をして克服している。
