ランニングで重要なのは「走りすぎない」こと
――東京2020も迫ってきています。このビッグイベントもトレーナー界の追い風になるのではないでしょうか。
中野:どうでしょうね。私は東京オリンピックが終わった後、みんながスポーツ大好きになったり、スポーツをするようになったりするかと言ったら、そうではないと思っているんです。日本人ってスポーツをエンターテインメントとして見るのは好きですけど、プレーヤーに対しては別次元という感じで距離を置いてしまいがちですよね。海外だとスポーツはもっと身近にあると思うんですけど。
石井:私は1964年の東京オリンピックの時に小学校4年生だったんですけど、当時は非常に大きなインパクトがありました。それがきっかけでスポーツをはじめた子どもも多かったと思います。私もウエイトリフティングを見たことでバーベルを扱う競技に行ってしまいましたから(笑)。
でも現代はビッグイベントが近くに来るということに、あまり意味がない時代ですよね。世界中どこでやっていても、ハイビジョンで臨場感がある映像が見られますから。ただ、実際に会場に行って生で観戦した子どもたちは、そのスポーツに興味を持ってチャレンジしていく可能性はあるかもしれませんね。
――プレーヤーということで言うと、ここ10年ほどでランナー人口は急増していますよね。各地で開催されるマラソン大会も増えていると思います。
中野:はい。ランニングが特殊なスポーツではなく、定番スポーツになってきていることがすごくうれしいですね。極端な言い方をすると、ランニングってシューズさえあれば誰でもできるので、いろいろな人が取り組むことができるんですよね。以前は夜遅くに走っていると変わった人という目で見られることもあったと思うんですけど(笑)。
石井:今はそんなこともないですよね(笑)。
中野:ただ私はいつも言うんですけど、ランニングって「やりすぎない」ことが重要だと思うんです。「走った距離は裏切らない」と言ったアスリートがいましたけど、私は走った距離は裏切ると思っています。走れば走るほどケガの発生率も高まりますし、実際にケガで走れなくなってしまったランナーもたくさん見てきているので、そのことは知っておいてほしいですね。1ヵ月300~400㎞走るようなことを続けたり、初心者が急に距離をのばしたりしたら体は悲鳴を上げるはずなので、そうならないように注意してほしいと思います。
石井:運動生理学をやっている人間から見ても、なんでそんなに走るんだろうと思うことがありますね(笑)。身体的な機能を高めたり維持したりする目的であれば、そこまで走る必要はない。それが伝統のようになっているのかもしれませんが、5分の1くらいで十分じゃないかという気がします。
中野:アスリートで走りすぎ傾向にある選手は、結果が出ないと「練習が足りなかった」と思うんですよね。練習をすればするほど、自分が強くなったような気がする。逆に走っていないと不安になる。でも、その先には障害が待っているんですよ。だから、そこをトレーニングやケアで埋めようという考え方にしていくことも私の仕事だと思っています。
石井:走りすぎると体が活性酸素の影響を受けたりもしますし、その後の人生のことを考えても、とくに一般のランナーは走りすぎに注意してほしいと私も思います。まあ、走ることによる心理的なメリットはいろいろあるのかもしれませんけど。