昨今、体づくりへの関心が高まる一方で、子供の体力・運動能力の低下が嘆かれている。アスリートを目指す、目指さないに関わらず、子供たちはどんな運動をすれば健康的でケガのない体をつくることができるのか。今回、Jリーグ・鹿児島ユナイテッドFCのアカデミーでフィジカル・メディカルのトレーナーを務める増成暁彦氏に話を聞いた。
――現在は鹿児島ユナイテッドFCでトレーナーをされているとのことですが、まずは簡単に経歴を教えていただけますか。
増成 もともと関東でずっとサッカーをやっており、筑波大学に所属していました。筑波大学では「傷害の予防」を専門分野として、修士課程、博士課程へ進みました。研究をしながら、大学を中心に周辺の高校や専門学校 などで幅広い世代のフィジカル・メディカルの指導をしていたのですが、昨年、縁があって鹿児島ユナイテッドのアカデミーのトレーナーのお話をいただき、初めて鹿児島へやってくることになりました。
――幅広い年齢層を指導するなかで、小学生の指導も多くされているかと思いますが、子供の運動能力の向上や、体づくりのために必要なことは何だとお考えですか?
増成 運動、つまり「体を動かす」ということを考えるなかで大切なのは3つあります。まずは、体の各部位の動かせる範囲を広げること=可動性(Mobility)を高めること。次に、体を大きく動かすことができても、中心となる軸が安定していないと強い力は発揮できません。つまり、体幹の安定性(Stability)が大切。そしてもう一つが、手と足など異なる部分をうまく連動させて動かす力、協調性(Cordination)です。物で例えるなら、ムチの動き。強く叩くためには先が長く大きく動いたほうがいい(可動性)ですし、土台となる持ち手がしっかりしていなければ強く叩くことはできません(安定性)。さらに、持ち手と先がうまく連動して動かなければいけない(協調性)ですよね。
――その3つの点からバランス良く鍛えることが大切ということですか?
増成 どれも大事なことですが、どれが一番大切かと言われれば可動性ですね。人間は、生まれたときは誰でも可動性がある生物なんです。赤ちゃんのときの関節は非常に柔らかいですよね。でも、さまざまな生活習慣のなかでそれが失われていってしまいます。特に子供たちにありがちなのは、足に合わない小さい靴を履いていること。足の指が固まってしまい、動きが出ない状態になります。足の指を使ってしっかり歩けない状態で筋肉や関節が固まってくると、足首や、股関節まで影響が伝わっていく可能性もあります。足首が固く、和式トイレのようにしゃがめない子はよくいますよね。
――可動性が失われてしまうと、運動のパフォーマンス低下にもつながるわけですね。
増成 加えて、可動性はケガの予防という意味でもすごく重要です。安定性や協調性については、よりうまく体を動かすために必要なことです。3つはリンクしているものですが、可動性がないのに無理にやろうとするとケガにつながってしまいます。
――つまり可動性を高めるということは、体づくりのベースとなる部分と言えるということですか?
増成 そうですね。まさに基礎となることなので、できるだけ低年齢の頃からつくっていくことが大事です。ぜひ、小学生くらいからそういったトレーニングに取り組んでいってほしいと思います。特に可動性は、もともと持っているのに失われていくものなので。
――そういった体づくりのトレーニングは、増成さんが指導されているサッカーのトレーニングにはどのように組み込んでいるのですか?
増成 基礎的なウォーミングアップのときに、体を動かすことにフォーカスしたトレーニングを入れています。子供たちの運動能力を高めるという点では、本当は低年齢であればあるほどもっと増やしたいところではありますが、やはりボールを使ってサッカーをしたいでしょうから。いい体の動きを覚えたうえで、それがサッカーのなかで消化されていくということを考えていますし、フレッシュな状態で体を動かせるようにするということを大切にしています。
――昔であれば、外で遊ぶなかでそういった体づくりの基本の部分が身についていたような気がしますが、最近の子供たちはなかなかそういう機会がありませんよね。
増成 本当にそう思います。例えばサッカーをやっている高校生でも、ボールをちゃんと投げられない子もいるんです。一般的によく言われていることですけど、いかに遊ぶかは子供たちの運動能力の向上には大事。現代のようにそれができないのであれば、こちらが遊ぶ場を提供しなくてはいけなくなっているのかなと思いますね。
★次回は”運動プログラム”について
取材・文・撮影/木村雄大
増成暁彦(ますなり・あきひこ)
1983年、神奈川県出身。鹿児島ユナイテッドFCアカデミーチーフトレーナー。筑波大学で、主に傷害予防トレーニングについて指導・研究を行い、2018年より現職。選手一人ひとりの心身と向き合い、体づくり、体の使い方も含めてきめ細かい指導を行なっている。
●鹿児島ユナイテッドFC各種ホームページは下記よりご参照ください
オフィシャルホームページ→http://www.kufc.co.jp/
アカデミー情報→http://www.kufc.co.jp/academy/about/
スクール情報→http://www.kufc.co.jp/hometown/school/