前回記事で紹介した投球動作の講義に続き、ワークショップの後半はその動作を行なう体を作るためのトレーニングの実践に移る。ここで登場するのがホグレル社自慢の「ホグレルマシン」だ。このマシンと他のトレーニング機器との最大の違いが「パンプアップ」に対するアプローチだ。ホグレルマシンは、その名のために体を「ほぐす」ためのもの。バキバキのマッチョは目指さない。
現在、このマシンを導入したジム、「ホグレルスペース」が東京と大阪にあるが、いずれもオフィス街に位置している。ビジネスマンが仕事後にちょっと立ち寄ることを想定した立地なのだ。
「仕事後、飲みに行く前に5分だけでもいいんです。毎日少しでもトレーニングしましょうと。1回行ったら1時間、2時間というのはなかなか続かないでしょう。軽くでも毎日。だから会社の昼休み来る人もいます。仕事前にも通えるように朝7時半から開いている店舗もあります。汗をダラダラ流すトレーニングではないので、シャワーもうちにはありません」とはスタッフの言葉。
そういえば、今回の取材でも、トレーニングウェアを持参したのだが、いざ行ってみると、「そのままで構いませんよ」と言われ、Gパンでワークショップを受講した(他の参加者は着替えていたが)。他の多くのジム、フィットネスクラブのように靴を履き替える必要もない。時間がなければスーツの上着を脱いだだけでトレーニングができる。それがホグレルスペースなのだ。
そのホグレルマシンだが、見た目はよく見るウエイトの機器と変わるところはない。ただウエイトに目をやると、その枚数が少ないのは一目瞭然だ。そしてどのマシンも基本的に「最後まで持ち上げない」ことがトレーニング方法となる。
例えば、このマシン(写真)。
トレーニングをしている人なら胸筋を鍛えるマシンであることはすぐにわかる。ただしよく見ると、広げた腕を回旋させるつくりではなく、平行移動させるものであることに気がつくだろう。足で下部のレバーを踏み、腕が触れる部分を前方に少し押し出した後、ここに腕を当てるのは通常のマシンと同じだが、ホグレルマシンの場合、これを前方に押すのでなく、足側のレバーを緩めることによって、広げた腕をさらに後方に広げるのだ。これによって胸筋を伸ばし、両側の肩甲骨の間の幅を狭める運動を行なう。これにより前回の野球の投球動作で言えば、肩甲骨を使って腕がスムーズに回るようになる。一般人が行なう草野球を見るとよくわかるが、多くの人が肩甲骨がほとんど動かないまま投球動作を行なっている。デスクワークが多くなると、どうしても猫背姿勢になってしまう。それでジムに行ってベンチプレスをガンガンやったりすれば、その時は気分爽快になるかもしれないが、胸筋がますます固くなり、これがパソコンを使ったデスクワークの多いオフィスワーカーの職業病である肩こりにもつながる。このマシンではそれを改善できる。
アスリートのパフォーマンスを最大限発揮できるようにと開発されたホグレルマシンだが、現在のところ、最大の顧客はビジネスパーソン、介護施設ということだ。実のところ、一日中パソコンに向かい合っている記者も腰痛という職業病に悩まされている。お辞儀をするのもおっくうなくらいで、整形外科やマッサージでは、「肩甲骨まわりと股関節を柔らかくしましょうね」と決まって言われる。ではそれをどうやったら柔らかくするのかと問えば、「ストレッチ」と判を押したような答えしか返ってこない。それでことあるごとに体を伸ばしているのだが、実は、ただ単にストレッチをしても、伸ばしたままの状態で固まるだけになってしまう。開脚ストレッチをたっぷりやって立った後、前屈みになってしまうという経験をした人も多いだろう。
軽く伸ばした状態で、ある程度動かすことで筋肉、とくに関節部をつなぐ腱に血流を行き渡らせ、柔軟になるのだという。ホグレルマシンはそのためのトレーニング機器で、トレーニングによりまさに体が「ほぐれる」のだ。
腰痛のもうひとつの敵、股関節用のマシンはこれ(写真)。
これも一見すると、よくある内転筋のトレーニング用のものだ。実際使い方もほぼ同じである。ただ、ホグレルマシンの場合、レバーを使って無理をしない程度に開脚した脚をセットすると、少しだけ腿を閉じ、力を抜いて広げるという運動を小刻みに繰り返すだけ。最後まで脚を閉じる必要はない。これを繰り返すと、だんだん股関節が広がっていくのが実感できる。目安は1セット30回。これを3セットが理想だが、時間がなければ1セットでも構わない。とにかく毎日続けることが大事だという。
また、腰痛の人間がよく言われるのが、「お尻が固い」ということ。これについては、このマシンが有効だ(写真)。
これも巷でよく見かけるレッグプレスと基本的には同じ構造である。ここまで読んでくれた読者ならもうお分かりだろうが、ホグレルの場合、重さはまったく追求せず、足を最後まで伸ばすこともしない。ただ小刻みに縮めた足を少し持ち上げるだけだ。スクワットで言えば、トップハーフを繰り返す要領だ。これハムストリングスを柔軟にする。
そして応用編として、2つのストレッチトレーニングも教えていただいた。
片足をもう一方の足の腿の上に乗せ上体を倒すストレッチはテレビのCMで見たことのある人は多いだろう。これと同じかたちをこのマシンで作り(写真上)、お尻の筋肉、殿筋が伸びた状態でやはり少し持ち上げる小刻みな動きを30回ほど繰り返す。繰り返しているうちに、殿筋群がほぐれていくのが実感できる。また、今度は足を伸ばし、片方の足をずらせてつま先だけ台に掛けて台を支えているもう片方の足の力を調整すれば、ふくらはぎを伸ばしながらトレーニングできる(写真下)。
これらのトレーニングが終わると、体がまさにほぐれたことが実感できた。
ワークショップの前半1時間ほど、相原さんの説明を聞いている際は、5分も直立不動だとお尻から腰がカチカチに固まってしまっていたが、マシンを使ったあと、最後のまとめのあいさつで立っているときには嘘のように腰痛が消え去っていた。
つづく
取材・文/阿佐智
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