日々ハードなトレーニングに勤しむ方からサラリーマンや主婦の方まで、すべての人にとって共通して必要なのは休息・リカバリーでしょう。あなたはしっかりと体を休ませることができていますか? 今回、プロアスリートなどに「リカバリー理論」を指導するほか、休養や健康関連を展開する企業のコンサルティングを手掛ける、“疲労回復の専門家”福田英宏先生にお話を聞きました。まずは、「そもそも人はなぜ疲れるのか?」について。
疲労は体ではなく脳が疲れること
――今回は“疲労回復”というテーマでお話を伺っていきますが、そもそも、人はなぜ疲れるのか?疲労とはいったい何なのか?そこから教えていただけますか。
福田:まず多くの人の認識として、運動をすると乳酸が蓄積され、それが原因で疲労状態になると思っている方も多いのではないでしょうか。以前はそう考えられていたのですが、実はかなり前にその考えは否定されています。疲労は体で感じるものではなく、脳で感じるものなんです。
――原因は体にあるわけではないんですね。
福田:はい。脳の中で自律神経が酷使されること、それが疲労の原因になります。運動で体温が上昇したり心拍数が上がったりすると、自律神経の中枢(視床下部・前帯状回)に負荷がかかり、疲労感が生まれます。例えば、ランニングを10キロしたとしても、夏に行なう場合と冬に行なう場合では疲れ具合が違うのではないでしょうか。夏は暑いので、汗をかくと体温を下げるために自律神経がより活発に働くため、夏のほうが大きな疲労を感じるはずです。
――その認識を持っていない人は多いと思います。
福田:私は以前にベネクスという疲労回復ウェアの会社にいて、8年ほど前から休養に関する啓蒙活動をしていたのですが、トップアスリートや指導者の方でも、疲労=乳酸の蓄積だと思っている方が多かったですね。なので、一般の方でも「疲労とは何か」を理解されている方はまだまだ少ないと感じています。
――ということは、疲労回復のためには自律神経に働きかけるアプローチが大切になってくるということですか?
福田:そうですね。もう少しその自律神経について詳しく説明すると、自律神経は呼吸、消化吸収、血液循環、心拍数といった生体機能を調整する神経であり、なかなか自分の意思ではコントロールできないものなんですね。そのなかで交感神経と副交感神経というものががあり、交感神経は活動的な神経で車で例えるならアクセル、副交感神経は休むもの、つまりブレーキの役割のようなものになります。
――自律神経のなかの交感神経と副交感神経が、随時切り替わっているわけですか。
福田:下の表はそれぞれが優位なときの体の反応を示していますが、特にわかりやすいものだと筋肉。交感神経が優位だと、運動をしているときは緊張状態になって力が出やすい状態になります。逆に副交感神経が優位になると弛緩状態になり、血流の量も多くなって老廃物が早く出ていきやすくなります。
――疲労感というのは、交感神経が優位な状態が続くことで生まれるんですね。
福田:そうですね。男性だと30歳くらいから、女性だと40歳くらいから、この副交感神経が優位になることが減ってくる、というよりスイッチしにくくなってきます。例えば、お酒を飲んだ時に抜けが遅くなってきたりしていませんか? サラリーマンの方で同じような仕事をして同じように寝たとしても、年齢によって回復具合が変わってくると思います。もちろん若い人でも残業が多かったり仕事のストレスが多かったり、夜は湯船に浸からずシャワーだけで済ませたり、明るい電気の下にずっといると、交感神経が優位な状態が増えていってしまいますね。
――つまり、副交感神経が働く時間を長くする、これが疲労回復のキーワードとなるわけですか。
福田:その通りです。先ほど、乳酸が蓄積している=疲れていると勘違いしてしまっている方だと、例えばマッサージだけで回復すると思ったりしてしまいます。なので、副交感神経が働く時間を長くするためのことを行なっていかないと、言ってしまえば、疲労につながるものを放置している状態になってしまっています。多くの現代人はとにかく交感神経が働きがちなので、これを正常な状態にしてあげること、つまりリカバリー(休養・回復)が必要になってきます。
取材・文/木村雄大
福田英宏(ふくだ・ひでひろ)
株式会社RecoveryAdviser(リカバリーアドバイザー) 代表取締役。プロアスリートをはじめとするスポーツ選手に「リカバリー理論」を指導するほか、休養や健康関連を展開する企業のコンサルティングを手掛ける「疲労回復の専門家」として活動中。これまで指導したスポーツ選手は、プロ野球球団やプロサッカーチームをはじめ、ラグビーやバスケット、バレー、卓球、テニス、ゴルフ、トライアスロンなど多岐にわたる。リカバリーウェアをはじめ、各種サプリ・グッズ等の最適な使用方法をアドバイスしてきた。自身も小学生5年から大学まで本格的に水泳競技に打ち込み、大学卒業後にはトライアスロン日本選手権に出場。また日本山岳耐久レースにも出場している。
●早稲田大学大学院スポーツ科学研究科(修士):研究テーマ『疲労回復ウェアに関する研究』
●睡眠改善インストラクター
●温泉入浴指導員
●Wasedaウエルネスネットワーク講師
●日本スポーツ産業学会 正会員