プルプル体を震わせて健康になる!?
昭和初期に健康法として大きなムーブメントとなった「西式医学健康法」は西勝造によって考案された健康法だ。長年研究してきた『西式強健術と触手療法』を昭和5年に出版し、たちまちベストセラーとなって、病気に悩む人たちへの一助となった。
西式健康法の西勝造氏(1884-1959)は9歳の頃から下痢に悩まされて病弱だった。16歳の時、医学博士にもなった佐々木政吉医師から「20歳まで生きられればよい」と診断され、西は独自で医学を研究していった。彼は、本来は医学者ではなく、専門は工学となる。米コロンビア大学に留学した時に、自分の身体を強くするためにアメリカの最新医学の文献を読み漁り、自分の身体で実験して西式健康法の骨格を作り上げていった。
当時の医学を痛烈に批判した人でもあり、それだけに医学界から良く思われなかった。西勝造著作集第一巻「西医学の基本」を見てみると、なんと、血液循環は心臓が原動力になっているのではなく、主に調節作用を行なうものであると書かれている。心臓がポンプとなって血液が循環すると常識的に学んできている我々には驚かされることだが、読み進めると納得させられるのは西勝造氏の西式医学が自然の原理から出発しているからだろう。
著作にはこうある。
「日本医学界の血液循環の考え方は当然のように心臓を血液循環の主動力とみなしていた。ところが、西式医学では血液循環の原動力を毛細血管網の毛管作用にあると考えた。つまり、毛細管が動脈を通して血液を吸引すると、動脈は管腔内に生じた真空力に屈して収縮する。そして、次の瞬間、本来の性能によって動脈は拡大し、左心室から血液を吸い出す。ついで左心室も空になるため収縮し、ただちに本来の性能によって拡大して、左心房から血液を吸引する。他方、左心房も同様に働いて、肺静脈から血液を吸引する。肺臓内の毛細管が他の部位の毛細管と同じように働くことは言うまでもない。
(毛管作用説が正しいのは)心臓を持たない動物の血液循環や母体から胎児への血液循環を考えてもわかるだろうし、発生学的に見ても首肯せられることである(原文ママ)」
また脊椎にしても独特の見解を持っている。これがこれから紹介していく健康体操のベースとなっているので、それも記しておこう。
「人間は比較的重い頭脳を支えながら直立歩行している。背骨を柱として使用することになったので胸椎に放物線形を描き、腰椎に双曲線形を与え、仙骨及び尾骨に放物線形を作り、頭脳の直接衝撃を避けるようになった。もしも曲線を描かず、棒のように真っすぐならば不安定極まりなく、歩行することが困難となるであろう。逆に、曲線があるために個々の椎骨は力学的影響を受けて、いろいろな故障を起こすようになり、あるいは捻じれたり、あるいは傾いたりして、副脱臼している。椎骨が副脱臼を起こせば、そこから出ている神経が圧迫されて、神経の末梢が十分な働きをせず、我々の身体に種々の病気や故障を引き起こす」
従って、正しい脊柱に戻すことが健康になるというのが西式健康法の一つで、その中でユニークな「金魚運動」は金魚が泳ぐようにクネクネしてコミカルだが、実は非常に合理的な運動なのだ。
「金魚運動」を発表したのは、今でいうウケを狙ったものではなく、金魚の生態から「金魚運動」と名付けられた。金魚は水質が悪くなったり、ケガをしたりすると傾斜して泳ぐようになり、そのうち弱々しくなって横倒しになって死んでしまう。ところが、弱々しくなった時点で尾っぽを持ってぶるぶると早く振ってから、水の中に入れてやると、たちまち息を吹き返して泳ぐようになるのだ。
ということで次回からプルプルと体を振る「金魚運動」というものを紹介していこう。ちなみに当サイトでは健康体操をテーマにしているため、それに沿って①金魚運動②毛管運動③合掌④背腹運動の4つの西式医学の運動を順番に紹介していきたい。
文/安田拡了
参考資料:西勝造著作集第一巻「西医学の基本」(昭和53年、柏樹社発行)