オリンピック・パラリンピックは悪じゃない【佐久間編集長コラム「週刊VITUP!」第164回】




VITUP!読者の皆様、こんにちは。日曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか? ゴールデンウイーク期間は連載を休ませていただいたことで、別件の執筆業に専念できました。ありがとうございます。

 

さて、新型コロナウイルスの猛威は未だ収まる気配はなく、東京、大阪など6都府県で緊急事態宣言が発令、継続中。スポーツイベントも無観客、収容人数の制限、あるいは中止や延期といった対応を余儀なくされています。

 

そうしたなか、東京2020オリンピック・パラリンピックの開幕が、およそ2ヶ月後に迫ってきました。世界各地、各競技で代表を決める予選が行なわれ、続々と代表選手が決まる一方で、本当に安全に開催できるのか?という不安は拭えません。

 

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私は2020年のオリンピック・パラリンピック開催地に東京が決定した2013年から、オリンピアン、パラリンピアンの取材を数多く担当することになり、今大会の出場内定、または有力選手を約50名取材してきています。インタビューさせてもらった選手は各種目のメダル有力候補ばかりなので、その活躍をとても楽しみにしていました(報道は担当しないので大会は取材しないで見るだけ)。

 

オリンピック・パラリンピックは、そこに向けて死に物狂いで頑張ってきたアスリートたちが、すべてをかけて競い合うことで大きな感動が生まれます。誰もが素晴らしい舞台であることを知っているのに、現在はコロナの影響もあって「オリンピック・パラリンピック=悪」になっているのが、悲しくて残念です。悪はオリンピック・パラリンピックではなく、新型コロナウイルスですよね。

 

直近でも石川佳純選手(卓球)、東海林大選手(パラ水泳)と、メダル有力選手へのインタビューをしていますが、オリンピック・パラリンピックへの発言は、慎重にならざるを得ない状況になっています。選手の立場としては大会を開催してほしいのは当然のこと。ただ、前向きな発言をしようものならバッシングが起こる。それっておかしくないですか?

 

白血病から奇跡の復活を果たし、オリンピック内定をつかんだ池江璃花子選手(競泳)は、自身のSNSに「辞退してほしい」という声が寄せられたことを告白し、「わたしに限らず、頑張っている選手をどんな状況になっても暖かく見守ってほしいなと思っています」とツイート。政府にオリンピック中止を求めるために、選手に「辞退してほしい」と言うなんて、おかしくないですか? 選手にこんなことを言わせてはダメですよ。

 

また、オリンピック・パラリンピック選手、関係者へのワクチンの優先接種について、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の橋本聖子会長は、「アスリートファーストの観点からも進めてほしい」とコメント。これもおかしくないですか? 日本のワクチンが圧倒的に足りていない状況で、医療従事者の方や高齢者、基礎疾患のある方よりもアスリートを優先。「人命よりもオリンピックが大事なのか!」と怒る人が出てきても仕方ない失言だと思います。

 

これを受けて陸上競技のオリンピック内定選手の記者会見では「アスリートのワクチン優先摂取についてどう思うか?」という質問が出て、桐生祥秀選手、新谷仁美選手らがコメントをしました。この記者会見はテスト大会に向けたもので、本来はレースについての言葉を聞くもの。そこで出たこの質問はおかしくないですか? もしも選手が「ありがたい話なので受けさせてもらいます」と言えば、「自分のことしか考えてない」と炎上間違いなし。逆に「自分たちよりも医療従事者や高齢者が優先です」と言えば、「選手もこう言ってるぞ、オリンピックを止めろ」と、選手の本意とは違うほうに導く。フェアな質問とは言えませんよね。

 

とにかくオリンピック・パラリンピックに関する報道は辟易するものばかり。我々は1年以上もコロナに嫌というほど攻撃されているのだから、もういい加減に人間同士で攻撃し合うのは止めませんか?という話です。

 

選手は大会で良い結果を出すために、何年もかけて、生活のすべてをかけて自己を高めるために頑張ってきています。八つ当たりをするのではなく、「頑張ってね」「応援してます」でいいじゃないですか。安心、安全な大会を実現するのはアスリートではなく、政府や組織委員会の仕事です。きっと役人さんたちも、安心・安全な大会の実現に向けて頑張っているはずなので、「頑張ってね」でいいじゃないですか。

 

オリンピック・パラリンピック関係者だけではありません。医療従事者の方は日々命がけで頑張っている。満員電車で毎日出社して働くサラリーマンもOLも頑張っている。時短営業で苦しいなか店舗を営む人も頑張っている。みんな目の前の仕事を頑張っているのだから、「頑張ってね」「応援しています」でいいじゃないですか。

 

悪いところを探して攻撃するよりも、励ましたり、応援したりし合ってるほうがいいと思いませんか? VITUP!はこれまでと変わらず、頑張っている人を応援するスタンスでやっていきます!

 

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、高校日本代表選出、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアン、パラリンピアンの取材を手がける。