風邪をひく、頭痛、筋肉痛、二日酔い……。日常生活では何かと薬のお世話になる機会も多いもの。薬はドラッグストアやコンビニでも簡単に手に入る時代。だからこそ、使い方を間違えると大変! この連載では大手製薬会社で様々な医薬品開発、育薬などに従事してきた薬学博士の長谷昌知さんにわかりやすく、素朴な疑問を解決してもらいます。
※この記事は2018年に投稿されたものを、再編集してお届けするものとなります。
Q.お腹の薬は何を飲めばいいの?
年末年始で食べ過ぎたり飲み過ぎたりすると、下痢をしたり、お腹が痛くなったりすることがあると思います。お腹の薬はドラッグストアでも数多く販売されていますが、たくさんありすぎて、何を飲めばいいのかわからないという方もいるでしょう。
下痢とは便中の水分が多すぎる状態のことです。通常、人間は1日に9リットルもの水が腸を通り、そのうちの99パーセントが大腸で再吸収され、1パーセント(100グラム)程度が便として排出されます。このバランスが少し崩れるだけで、下痢になってしまうのです。
下痢にはいくつかのタイプがあります。もっとも多いのが食べ過ぎ、飲み過ぎによる下痢。このタイプの大部分は消化不良により、腸からの水分吸収が阻害される「浸透圧性下痢」と呼ばれます。牛乳を飲むとお腹を壊す下痢もこれに当てはまります。こうしたタイプの場合は、薬を飲まなくても1~2日でおさまりますが、正露丸やビオフェルミンといった市販薬で止めてしまっても問題ないと思います。
腸の通過時間が短くなる「蠕動(ぜんどう)運動性下痢」というものもあります。腸は食べたものを口から肛門側に動かすために蠕動運動を繰り返しています。それが活発すぎると食べたものが短時間で腸を通過してしまい、水分の吸収が不十分で下痢になってしまうのです。食事や精神的ストレスなどの影響で、蠕動運動が活発になる状態のことを過敏性腸症候群と言います。緊張でお腹が痛くなるというのは、まさしくこのタイプです。こうした場合、蠕動運動をおさえる薬(ロペミン)が有効です。こちらも薬で止めてしまっても大きな問題はありません。
下痢止めを使用しないほうがいい下痢もあります。腸に入った細菌による毒素やホルモンが原因で腸からの水分分泌量が増える「分泌性下痢」や、炎症により滲出液が増える「滲出性下痢」です。これらはノロウイルス、O-157といった細菌やウイルス、あるいはアメーバなどの寄生虫が食べ物とともに口から入って発生します(いわゆる食中毒など)。毒素や異物を取り除くために、下痢は止めずに排出してしまったほうがいいいでしょう。例えば、この時期、多く消費される牡蠣による下痢はノロウイルスが原因ですので、下痢により素早く体外に排出することが必要です。ただし、下痢により大量の水分が体の外に出てしまいますので、脱水症状などに気をつけて水分やナトリウムはしっかり補給してください。軽い場合は数日で治りますが、細菌の種類やウイルスによっては、吐き気や嘔吐、発熱などの症状が表れることもあります。
経験したことがない下痢や、便に血が混ざっている場合は、腸がかなり傷んでいる状態なので薬を飲めば大丈夫と考えずに、必ず病院で診察してもらってください。短期の下痢の場合は心配することはありませんが、下痢が長く続く場合などは、大腸がんの恐れもあるので、たかが下痢とは考えず、病院に行くようにしましょう。
長谷昌知(はせ・まさかず)
1970年8月13日、山口県出身。九州大学にて薬剤師免許を取得し、大腸菌を題材とした分子生物学的研究により博士号を取得。現在まで6社の国内外のバイオベンチャーや大手製薬企業にて種々の疾患に対する医薬品開発・育薬などに従事。2018年3月よりGセラノティックス社の代表取締役社長として新たな抗がん剤の開発に注力している。
Gセラノスティックス株式会社