―――ウエイトトレーニングによる症例として、手首の怪我も多いように思います。
そもそも、ウエイトトレーニングは、ずっと何かを握っていますよね? これにより、指の屈筋(曲げる筋肉)は固くなります。そうすると、回外(手のひらを上に向ける動作)制限というのですが、手は開きにくくなります。手首の怪我が、ウエイトトレーニング中に発症するのは、このことと関係があります。
―――特に、手首の小指側に痛みを抱える人が多いように思います。
よくあるのが、TFCC(Triangular Fibrocartilage Complex:三角線維軟骨複合体)損傷です。TFCCとは、手首の尺骨側(小指側)の付け根の部分なのですが、ここには繊維軟骨や複数の靭帯などが集まっています。尺骨側の手首の安定や、衝撃の吸収などの役割を担っています。その損傷がTFCC損傷です。前腕との関係で、アームカールなら痛くないのに、ベンチプレスをすると痛い、そうした現象が起きたりします。
―――どのようにして受傷してしまうのでしょうか?
例えば、手首が小指側に曲がり(尺屈)、後ろに反る(背側)ことで受傷します。手首を突いてTFCCを痛めることもあります。その場合、尺骨が浮き上がって見えます。その浮いた部分をテープなどで締めると安定することがあります。
―――テーピングやリストラップは有効なのでしょうか?
症状によります。尺骨が浮き上がっている場合や、橈骨(手首の親指側)と尺骨の間が緩くなっている場合に、テーピングなどで締めると、安定することがあります。ですが、片側の位置が通常よりも落ちている時は、締めても効果がありません。その場合、締めるのではなく、その箇所を持ち上げることで、動きやすくなり、握りやすくなります。手首が安定し、腱がいい位置に来ると、安定するということです。要は、TFCCは、膝の半月板のようなものです。
一例を挙げると、ダンベルプレスを行う時に、握る位置がダンベルの中心より内側ずれていたりすると、重心が外側に移動し、手首が掌側した状態になる。これに背屈が加わると、TFCC損傷の危険が高まる。握り位置を変えることは、ウエイトトレーニングのテクニックの1つであるが、とりわけ高重量を扱う時には気を付けたい。
次回は、怪我をした際の「安静」をどう考えるのか、療法という視点からお話を伺う。
取材・文/木村卓二
理学療法士、日本体育協会公認アスレティックトレーナー。2000年、北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科理学療法学専攻を卒業し、理学療法士免許を取得。以後、三菱名古屋病院で膝関節、肩関節疾患などのリハビリテーションを担当。現在はジャパンラグビートップリーグ・豊田自動織機シャトルズのヘッドアスレティックトレーナーを務める。