大学スポーツを統括する「日本版NCAA」とは!?




高校スポーツには高体連(公益財団法人 全国高等学校体育連盟)、中学スポーツには中体連(公益財団法人 日本中学校体育連盟)が存在するが、大学スポーツを統括する団体は存在しない。大学のスポーツを競技や地域の枠を超えて統括する組織として、文部科学省が構想しているのが「日本版NCAA」の創設だ。NCAAとはNational Collegiate Athlete Associationの略で、全米大学体育協会を意味する。1906年に設立された組織で、全米の大学スポーツ全般を統括する非営利団体だ。NCAAには1123の大学、39の連盟が所属し、24の競技を統括。団体として90の大会も運営しており、放映権料などで年間1000億円以上の収益をあげている。

「日本の大学スポーツはオリンピアンの3分の2を輩出しているにも関わらず、自主的な課外活動という位置付けのため、統括する組織が存在しない」。江戸川大学教授であり、政府の審議会である「大学スポーツの振興に関する検討会議タスクフォース」で座長を務めた小林至氏は、スポルテック2017にて行われた『日本版NCAA構想の本質と目指す姿』と題されたセミナーでそう語った。競技や地域ごとに組織された“学連”は存在するが、それらを横断的に統括する団体はないのが現状だ。そのため、大学スポーツは産業として利益を生み出す構造になっておらず、選手だけでなく指導者などもいわゆる手弁当で行われている状況を生み出しているという。

NCAAのような団体が存在することのメリットは、何も金銭面だけではない。NCAAの規則ではシーズン中であっても学生の練習時間が週に20時間までと定められており、週に1日は休息日を設けなければならないことも明記されている。学業についても一定の成績を収めなければならないなどの条件が設けられており、守られていない場合、大学に対して罰則が課せられる。学業とスポーツの両立についても厳しいルールが存在するのだ。

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こうした練習時間の上限や、学業の成績について一定の条件を設けることは日本版NCAAでも導入される見込み。また、統一した組織が受け皿となることで、競技中や練習中に事故が起きた場合などの責任体制や保険加入なども明確となるなどのメリットもあるという。ほかにも、競技者に対するキャリアサポートや、啓蒙・教育、表彰制度の導入や競技の公正さをさらに高めるなどの役割も期待される。文部科学省では、この日本版NCAAに当たる組織を2018年度に発足させることを目標とした方針をまとめている。

大学スポーツの産業化という面に注目が集まりがちな日本版NCAAだが、大学スポーツの競技者がきちんと学業に集中できる環境が整備され、指導者や関係者も健全に運営に関われる状況を作る契機となることを期待したい。

文/増谷茂樹