自分だけは自分を信じるんだ。それには「すべてが可能だ」と信じるマインドセット(意識付け)が必要なんだ。(マグジー・ボーグス)【名言ニュートリション】




マグジー・ボーグスは、世界最高峰のNBAで史上最も身長の低いプレイヤーだ。
身長160センチ、しかもこれは公称で実際は156.7センチだとの説もあり、そうなると日本女性の平均身長程度だ。しかし、そのサイズで2メートルを超える男たちを見事に操る司令塔として、14年間にわたって活躍したレジェンドである。

ルーキーシーズン、ボーグスは当時のNBA史上最も背の高かった身長231センチのビッグマン、マヌート・ボルがチームメイトだったことで、とてつもない身長差が話題を集めた。

次に移籍したチームではアシストやディフェンスで非凡な才能を見せた。1試合19アシストという記録を打ち立て、また素早い動きと読みで相手のドリブルやパスをスチールする姿にファンは興奮した。

スター選手だった213センチのパトリック・ユーイングのシュートをブロックして、世界に驚きを与えたこともある。マイケル・ジョーダンもしつこいディフェンスに手を焼いた。現役引退後は、女子プロバスケットの監督や男子高校生チームの監督、NBAの親善大使を努めている。

彼は2016年、『奇跡のレッスン~世界の最強コーチと子どもたち~「バスケットボール編」』(NHK)に出演した。東京の下町にある公立中学校の男子バスケットボール部員たちに熱血指導。経験者が少なく、プレーに自信が持てずにいた子供たちが、マグジーがコーチした1週間で大きく変わっていく、その様子を追った番組だった。今回の名言はこの番組で語られたものだ。

NBAからコーチがやってくると聞いた中学生たちは、当然ビックサイズの元プレイヤーを想像していた。しかし、現れたのは自分たちよりも小さなオジサン。最初は戸惑ったものの、生徒たちはマグジーが発するメッセージに突き動かされていく。

生徒たちが消極的なプレーをすればハッキリと指摘する。「なぜ?」と問いかけていく。逆に良いプレーや、限界を超えようとするプレーに対しては、大きな声でオーバーなくらいに褒め称える。「いいぞ!」「最高だ!」という具合に。

プレーしてすぐに褒められるから「ああ、これがいいプレーなんだ」と心に刻まれる。すると、「もっとやってみよう」とチャレンジするようになっていく。

自信のない子供たちに成功体験をさせて可能性を引き出す。成し遂げたことを確認させるために褒める。マグジーのコーチングは生徒たちに「この人は自分のことをしっかり見てくれているんだ」と感じさせ、そこで信頼関係が生まれていった。

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常に子供たち1人1人を見るようにしています。彼らはやっている事が正しかどうか気にしています、それを教えてあげる事で信頼関係ができあがっていくのです。
ネガティブなことばかり聞かされていると、彼らの思考もネガティブになります。

自分の指導がうまくいかないのを、怒りや威圧という表現で表すコーチもいる。だがマグジーは、そのような態度とは無縁で常に子供たちの側に寄り添っている。

冒頭の名言に続けてマグジーは「僕にはすべてを自分で決めよう!とマインドセットした瞬間があった」と言った。

5歳の時、危険な地域を歩いていて、大人が発砲した銃弾が当たり、ケガをしてしまうという事件が起きた。マグジーの腕には、そのときの痕と弾の破片が右腕に残っている。死の恐怖を感じて彼の意識が大きく変わった。

運命は自分でコントロールしなければいけない。人は皆最高の人生を生きるべきだ。でも自分自身がそれを信じていないと意味がないんだ。

のちに父親が犯罪を犯して逮捕され、マグジーは家族のためにも、NBAを目指そうと決意する。その後は自分を信じ続けて努力した。

どれだけの人間が「その身長でNBA? 無理に決まっている」と偏見で断じてきたことか。しかし、マグジー自身の決心はそんなことで揺るぎはしなかった。そして、プレーの結果で黙らせてきた。

背の高い選手は上から見渡すことができる。背の低い選手は下から見ることができる。どちらもアドバンテージであって、その個性を活かせばいい。背が低ければボールにより近い位置でディフェンスできるから、スチールするには有利だ。

アメリカのテレビ番組『The Doctors』で、背の低さに悩む少年に、このようなアドバイスを幾つも与えた。そこには、発想を柔軟に、視野を広くすることで可能性が広がる、という想いが込められている。

『奇跡のレッスン』は大きな反響を呼び、再放送のリクエストが続いた。そして番組は、国際的なメディアフェスティバルの賞に輝いた。

マグジーの姿勢と実行力に感銘し、子供たちに接する態度を見つめ直してみたいという声が、親、教師、指導者から数多く寄せられたという。

文/押切伸一