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オリンピックが楽しくなるコラム~エリートアカデミーとは?【佐久間編集長コラム「週刊VITUP!」第102回】

VITUP!読者の皆様、こんにちは。日曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか? ここ最近はアーティスティックスイミング、セーリング、トランポリンなど、オリンピック関連の取材が続いておりました。というわけで、不定期でお届けしている「オリンピックが楽しくなるコラム」の今回のテーマは「エリートアカデミー」です。

(C)Sushiman -stock.adobe.com

2008年にナショナルトレーニングセンター(NTC)が創設された際、JOCは3つの事業を打ち出しました。それが「JOCナショナルコーチアカデミー事業」、「JOCキャリアアカデミー事業」、そして、「JOCエリートアカデミー事業」(以下、エリートアカデミー)です。エリートアカデミーは、全国から優れた素質を持つジュニア競技者を発掘し、一貫指導システムの下、将来的にオリンピックをはじめとする、国際大会で活躍できるアスリートの育成を目的としたもの。中学1年生から高校3年生まで6年間にわたって実施されています。

競技力の向上だけでなく、人格形成にも力を入れていて、「英会話教室」「キャリア教育」「栄養教育」といったカリキュラムも用意されています。競技で結果を出すためには、人間性も磨かなければならないということです。現在、この事業に取り組んでいる競技団体は、レスリング、卓球、フェンシング、飛込み、ライフル射撃、ボート、アーチェリーの7団体。着実に増えているものの、実施していない団体のほうが大多数です。

有力な選手の育成なら全部の競技団体が取り組んだほうがよいのでは?と思うでしょう。ところが発足時にエリートアカデミー事業への賛同が得られた競技団体は、レスリングと卓球の2団体だけでした。中学生、高校生がNTC(アスリートビレッジ)に住みながら近隣の学校に通い、放課後はナショナルトレーニングセンターに戻って練習。こうした育成法は前例がなかっただけに、多くの競技団体が慎重だったというわけです。学校部活との兼ね合いや、「エリート」という名称への反発もあったと聞きます。

「エリート」という言葉は、憧れの対象であると同時に、どこか高慢な印象も受けます。エリート型の選手と雑草型の選手がいたら、心情的に雑草型の選手のほうが応援されるような印象があります。実際、中学1年生からエリートアカデミーに在籍した経験を持ち、東京2020オリンピックに出場するレスリングの乙黒拓斗選手は、エリートアカデミー所属ということで、周囲からの反発をすごく感じていたと語っています。以下はかつて取材させていただいたときのコメントです。

「エリートアカデミー所属ということで、僕が試合で1点取られただけでも周りの人たちがみんな喜んでいて、いつもアウェイのような環境で試合をしていました。ただ、世界で闘っていくためには、どんな環境でも闘えないといけないですから。中学時代からそういう経験をしてきたので、海外で完全アウェイの環境で試合をしても気にすることはありません。逆に今は多くの方に応援してもらえて嬉しいですし、期待に応えたいという気持ちが大きいです」

相手選手やセコンドはもちろん、直接関係のない周囲も「エリートに負けるな」という空気になることはなんとなく想像できます。判官びいきというやつです。中学1年生から周囲に敵対視されながら闘うのは、精神的にはかなり厳しかったことでしょう。大変な思いはあったとしても、早くからオリンピックを意識し、日の丸を背負ってきたからこそ身につく強さもあります。乙黒選手は2018年に二十歳で臨んだ世界選手権で、初出場初優勝。圧倒的な内容で優勝は、エリートアカデミーで育ってきた影響が大きいと言えるでしょう。

東京2020オリンピックには、乙黒選手以外にもレスリングの向田真優選手、卓球の張本智和選手、平野美宇選手といったエリートアカデミー出身の選手が出場します。こうした選手が活躍することで、現在所属する中高生や各競技団体にも好影響を与えるはず。エリートにはエリートにしかわからない苦労がある。エリートとして勝つことを義務付けられてきた彼らが、最高の舞台で最高のパフォーマンスを発揮してくれることを強く願っております。

 

 

 

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアンの取材を手がける。