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良い眠りのためには何をすればいい?【疲労回復の専門家・福田英宏先生の「しっかり休めていますか?」vol.3】




日々ハードなトレーニングに勤しむ方からサラリーマンや主婦の方まで、すべての人にとって共通して必要なのは休息・リカバリーでしょう。あなたはしっかりと体を休ませることができていますか? 今回、プロアスリートなどに「リカバリー理論」を指導するほか、休養や健康関連を展開する企業のコンサルティングを手掛ける、“疲労回復の専門家”福田英宏先生にお話を聞きました。今回は、「良い眠りのために必要なこと」について。

朝日をしっかり浴びることが良い眠りにつながる

――前回は眠りの仕組みについて教えていただき、そのなかで「最初の90分」が大切とのことでした。ここの眠り質を高める方法はありますか?

福田:深い睡眠に入るために大切なことは、体の深部体温が下がってきているところで眠りにつくことです。詳しくは第4回で入浴についてお話ししますが、その前に人間の体内リズムのお話しをしましょう。1日というのは24時間ですが、実は人間の体のリズムはそれより少し長く、平均24.18時間だと言われています。この時間のズレを、光、食事、運動、人との関わりによって調整して体内時計をリセットさせているんです。

――そこでリセットできないとズレが溜まっていく。

福田:そういうことです。朝に太陽の光を浴びない、食事をしない、運動もしない、人とも会わない……となると、上記の“0.18時間”が足されていき、そのズレ幅が大きくなっていくと、お昼まで寝るようになったり、昼夜逆転してしまったりしてしまいます。

――しっかりとリズムを作ることが大切なんですね。

福田:毎朝同じ時間に起きてまずは太陽の光を浴びる、これが体内リズムの調整においてはとにかく大切ですね。人間の体が本来持っている一日の体内リズムのことをサーカディアンリズム(概日リズム)と言うのですが、これと違うことをしようとすると、体に疲労が溜まりやすくなってくるのです。一日3交代制とかのお仕事をされている方などは寝る時間がバラバラになるので、このサーカディアンリズムがひっちゃかめっちゃかになってしまうわけですよね。若い時は大丈夫かもしれませんが、歳をとってくると体に異変が起きてくるかもしれません。

――やはり年齢は影響してくるんですね。

福田:第1回でお話したように、自律神経の乱れというのは男性だと30歳頃から起きやすくなります。赤ちゃんは疲れたらパタッと寝るし、起きたらすごく元気ですよね。あれは自律神経のスイッチがもっともしっかりできているということなんです。若いときはある程度までできるのですが、30歳を超えたり、不規則な生活を送ったりしていると自律神経がスイッチしにくくなってきてしまう。そうなると、人によってはうつ病になってしまったりします。うつ病の方は副交感神経が優位すぎて交感神経にスイッチしないことがあるようです。やはりそれはサーカディアンリズムが崩れてしまっていっているということなので、朝しっかり起きて、太陽の光を浴びるところからうつ病の治療を始めていく方は多いみたいです。

――やはり朝日を浴びることが誰にとっても大切だと。

福田:太陽の光というのは、晴天なら10万ルクス、雨天でも5000ルクスくらいありますね。室内の照明だと明るくしても、500~1000ルクスくらいなので、朝起きたらまずカーテンを開けてもらって外を見てもらうのが大切です。目のところ、視床下部というすごく大事な部分があるので、目で見るというのが大事です。なぜ太陽の光が大切かをもう少し説明すると、太陽の光を浴びることでセロトニンという安定・癒しの物質が体内で分泌されるんです。

――セロトニンが分泌されるには、部屋の明るさでは確保できないということですか。

福田:そうです。セロトニンの分泌には2500ルクス以上の明るさが必要だとされています。セロトニンは安定や癒しの物質なのですが、これがしっかり分泌されると、夜にはメラトニンという眠気の物質に変わるんです。逆に言えば、セロトニンが出てこないとメラトニンが出てきません。体内時計というのは光でリセットされた14~16時間後にメラトニンが出てきて眠くなってくるので、朝に太陽の光を浴びないと、夜に眠れなくなるということになります。

――朝に太陽の光を浴びるのは目を覚ますためと思っていましたが、夜にしっかり眠れるようにするという意味もあるんですね。

福田:そうです。特に今は在宅ワークなどで家の中で一日中イスに座って仕事をされている方も多いと思うのですが、朝に10分程度でも外で散歩するとかなり違ってくると思います。ちなみにこれは余談ですが、冬だと日の出がかなり遅いので、朝練を行なうアスリートが太陽が出てこない時間から練習を行ない、リズムを崩してしまう方がいたりします。その対策として、設定した時間に最終的に2500ルクスくらいの光を発する「光目覚まし時計」を使って調整している人もいますね。

――ちなみにセロトニンやメラトニンは、食事によって補うことはできるんですか?

福田:セロトニンやメラトニンの濃度を上昇させるために、必須アミノ酸の一つであるトリプトファンを含んだ食品を摂ってもらうのはいいですね。食物として接種されたトリプトファンは、脳内に輸送され、脳内セロトニン濃度の上昇につながります。バナナ、ヨーグルト、牛乳、アボカドなどにトリプトファンが含まれています。また食品で摂るのが難しい場合は、ガムを噛むように勧めています。咀嚼のリズムによってセロトニンが出やすくなっていると言われているからです。

第4回「ぐっすり寝るためのお風呂の入り方とは?」に続く

取材・文/木村雄大

福田英宏(ふくだ・ひでひろ)
株式会社RecoveryAdviser(リカバリーアドバイザー) 代表取締役。プロアスリートをはじめとするスポーツ選手に「リカバリー理論」を指導するほか、休養や健康関連を展開する企業のコンサルティングを手掛ける「疲労回復の専門家」として活動中。これまで指導したスポーツ選手は、プロ野球球団やプロサッカーチームをはじめ、ラグビーやバスケット、バレー、卓球、テニス、ゴルフ、トライアスロンなど多岐にわたる。リカバリーウェアをはじめ、各種サプリ・グッズ等の最適な使用方法をアドバイスしてきた。自身も小学生5年から大学まで本格的に水泳競技に打ち込み、大学卒業後にはトライアスロン日本選手権に出場。また日本山岳耐久レースにも出場している。
●早稲田大学大学院スポーツ科学研究科(修士):研究テーマ『疲労回復ウェアに関する研究』
●睡眠改善インストラクター
●温泉入浴指導員
●Wasedaウエルネスネットワーク講師
●日本スポーツ産業学会 正会員