ダイエット後の「リバウンド」はこうして起こる 摂取カロリーを減らすことのリスク




筋肉はエネルギーの最大の消費者

筋肉をつけることで基礎代謝が上がり、脂肪が落ちやすい体になっていく。それがトレーニング現場に伝わりはじめたのが1990年代後半だったと書きました(前回記事)。

しかし、この考えはすぐに受け入れられたわけではなく、“新常識”になりはじめたのは2000年以降だったと思います。

巷で根強かったのは「エネルギー収支が問題であれば、摂取カロリーを減らせばいいじゃないか」という考えです(今でも存在していると思います)。

たしかに間違いではありません。一時的に脂肪を落とすことが目的であれば、最も手っ取り早い方法は食事制限です。摂取カロリーを減らせば、絶対にやせます。これは物理学的にも真実です。しかしそれだけでは、その後に本人が望まなかった問題が起こります。

エネルギーの収入が減ると、そのぶん体は支出を減らそうという反応を起こします。つまり、なるべくエネルギーを使わないように、あまり動かなくなりがちです。基礎体温も低くなります。
その上、重要なエネルギー源である脂質を使うことを抑え、エネルギーの最大の消費者でもある筋肉を減らそうとします。さらに悪いことには、その状態でカロリー摂取量を元に戻すと、筋肉が減ってしまっているので、そのぶんが脂肪となって蓄えられ、リバウンドが起こるのです。

(C)おでんじん_AdobeStock

せっかく苦労して摂取カロリーを抑えたのに、長い目で見ると筋肉が減って脂肪が以前よりも増えてしまうという逆効果になってしまいます。これは悲しい結末ですね。

筋肉は熱を出すことでもエネルギーを消費する

筋肉の安静時のエネルギー消費は、組織の重さあたりで見れば肝臓や腎臓などの臓器と比べると決して大きくはありません。しかし、体全体での筋肉の量は体重の40%(20歳代の男性)と圧倒的に多いので、その影響を体は大きく受けます。

まず、運動時には筋肉は当然多量のエネルギーを消費しますので、運動をしている最中のエネルギー消費のほとんどは筋肉によるものと考えてよいでしょう。

さらに、筋収縮による活動をしていなくても筋肉は「熱の産生」によってエネルギーを消費し、基礎代謝を高めています。それが以前も説明した「サルコリピン」の発見ではっきりわかりました。この発見は2012年なので、非常に最近の話です。

クマやリスなどは、冬眠中に体温を維持することが生きるための必須条件です。その役割を担うのが体内に豊富にある「褐色脂肪」。その中には「UCP1」という熱を発するタンパク質が含まれ、地中で長期間生活していても体温がキープされる仕組みになっています。ヒトにも褐色脂肪があるので、サルコリピンが発見される前は「褐色脂肪の活性化がダイエットになる」といった表現が雑誌などでも見られましたが、その量はクマなどに比べると非常に少なく、通常の条件ではダイエット効果はあまり期待できないでしょう。

「UCP1の活性が低いタイプの遺伝子を持っている人は肥満になりやすい」という疫学的なデータがあるので肥満体質に関連している可能性はありますが、筋肉の中で熱を生み出す「UCP3」、そしてサルコリピンが発見された時点で、ヒトにおける褐色脂肪の熱産生効果はかなり限定的になったと言えます。

具体的には、ヒトの熱産生のうち褐色脂肪が担っている割合は約20%と言われています。そして肝臓や腎臓、脳など盛んに代謝をしている臓器が約20%。残りの60%を筋肉が担っているというのが最近の考え方です。

とくにサルコリピンのない動物は極度の肥満になり、糖尿病になってしまうことも実験で証明されているので、エネルギー収支のバランスを保つ上で筋肉が大きな役割を担っていることは間違いありません。

 

※本記事は2018年に公開されたコラムを再編集したものです。

石井直方(いしい・なおかた)
1955年、東京都出身。東京大学名誉教授。理学博士。専門は身体運動科学、筋生理学、トレーニング科学。ボディビルダーとしてミスター日本優勝(2度)、ミスターアジア優勝、世界選手権3位の実績を持ち、研究者としても数多くの書籍やテレビ出演で知られる「筋肉博士」。トレーニングの方法論はもちろん、健康、アンチエイジング、スポーツなどの分野でも、わかりやすい解説で長年にわたり活躍。『スロトレ』(高橋書店)、『筋肉まるわかり大事典』(ベースボール・マガジン社)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など、世間をにぎわせた著作は多数。