アメリカ発祥のクロスフィットは日本に上陸して15年余り、まだまだ認知されているとは言い難いスポーツだが、年々専用のジム(ボックス)も日本中で増加している。今回は今年の日本一を決めるJapan Championshipを9月に控え、盛り上がりを見せているクロスフィットについて複数回にわたり紹介する。
本企画で取材したのは、クロスフィットボックスのオーナーで、クロスフィット界の中心人物の一人としてクロスフィット業界を盛り上げている小杉幸博氏。今回は「クロスフィット大会の魅力とは?」というテーマで話を聞いた。

――9月に開催されるJapan Championshipとはどんな大会で、クロスフィッターにとってはどのような位置付けの大会ですか?
「Japan Championshipは、日本のCrossFitのトップを決める国内最高峰の大会です。2019年に始まり、全国のクロスフィッターがオンライン予選に参加し、そこを勝ち抜いた選手たちが9月に山梨で開催される本戦で競います。
日本で開催される大会では唯一のCrossFit公認イベントで、日本に住んでいる選手を対象としているため、名実ともに『日本一のクロスフィッター』を決める大会という位置付けです」
――大会で行なわれるワークアウトはいつ、どのように決まりますか? 大会で行うワークアウトを決めるポイントは?
「大会のワークアウトは、本戦の約2週間前を目安に発表しています。内容については、大会として『誰が一番フィットネス能力が高いのか』をしっかり評価できることを一番大切にしています。単純に重いものを持ち上げられる、速く走れるという一つの能力だけではなく、筋力、持久力、スピード、スキルなど、CrossFitに必要なさまざまな能力を総合的に試せるようにワークアウトを組んでいます。また競技として公平であることはもちろん、選手が全力を出せて、観客が見ても楽しめる内容になることも意識して決めています」
――YouTubeでも配信されると思いますが、初めてクロスフィットの大会を見る人には、どこに注目してほしいですか?
「初めて見る方には、まずは難しく考えずに、選手たちの迫力や最後まで全力で戦う姿を楽しんでもらいたいです。CrossFitは、ワークアウトによって競技内容が全く違うので、そのたびに得意な選手が入れ替わるのも面白いところです。また、各ワークアウトの順位に応じたポイント制で総合順位を決めるので、1つのワークアウトで勝ったからといって大会で優勝できるわけではありません。最後まで総合順位がどうなるかわからない展開や、ワークアウトによっては優勝候補を別の選手が破るような『ジャイアントキリング』が起きるところにも、ぜひ注目してもらいたいです」
――同じワークアウトをする中で強い選手はどんなところに違いが現われますか?
「同じワークアウトをしていても、強い選手ほど自分の力を理解して、他の選手に左右されず最後まで崩れないペースで進めるのが上手いです。CrossFitは、単純に筋力が強い、持久力があるだけでは勝てません。たとえばどこで休むのか、どこでペースを上げるのか、種目の切り替えをどれだけ速くできるのか。そういった細かい部分の積み重ねが最終的には大きな差になります。とくにトップ選手になると体力や技術の差は小さくなってくるので、ワークアウト全体をどう組み立てて、自分の力を最後まで出し切れるかという部分にも注目してもらえると面白いと思います」
――今年のJapan Championshipで、とくに注目してほしいポイントはありますか?
「個人的に注目しているのは、今年は本戦初出場のアスリートが多いことです。オンラインで行なわれた予選の結果を見ると、これまで本戦に出場してきた選手だけでなく新しい選手が多数入ってきました。そういった選手たちが本戦でも活躍して世代交代が起きるのか、それともこれまで日本のCrossFitシーンを引っ張ってきたトップ選手たちが強さを見せるのか、非常に楽しみにしています」
――注目している選手、あるいは「こういうタイプの選手を見てほしい」という選手はいますか?
「注目している選手はたくさんいますが、今回はとくに4人挙げたいと思います。1人目は亰須卓雅選手です。Japan Championshipの予選に挑戦しながら、メンズフィジーク168cm級の大会でも優勝するという、他のCrossFitアスリートとは少し違ったバックグラウンドを持っています。フィジークでも結果を残せる身体をつくりながら、CrossFitでも日本トップレベルに挑戦する。そんな彼が今大会でどんな戦いを見せるのか楽しみです。
2人目は古賀円花選手です。昨年のJapan Championshipで日本2位。さらに2026年5月に韓国で開催されたCrossFit公認イベント、Far East Throwdownには日本人女性として唯一出場しました。着実に実力を伸ばしてきた彼女が、今年こそ日本の絶対女王・作山悠子選手を破り、日本一になることができるのか注目しています。
3人目は松本潮霞選手です。ウエイトリフティング日本代表としてリオオリンピックにも出場したトップアスリートで、昨年Japan Championshipに初参戦しました。ウエイトリフティングというひとつの競技を世界レベルまで極めた彼女が、CrossFitterとしてどこまで成長しているのか。今年どんな戦いを見せてくれるのか非常に楽しみです。
そして4人目は浦川大生選手です。CrossFitで日本一になることを目指して、長く勤めた会社を辞め、24年間続けてきた柔道にも区切りをつけて挑戦しています。2024年は予選敗退。しかし、そこから努力を重ね、2025年には日本2位まで一気に駆け上がりました。その悔しさと経験を経て挑む今年、ついに日本一を獲ることができるのか。個人的にも非常に注目している選手です。
最後に5人目は三澤和宏選手です。多くの選手はボックスでコーチをしながらトレーニングをしていますが、彼は別の仕事をしながら長年トップCrossFitterであり続けています。今年も最年長でトップクラスの予選成績を残しており、若い選手が成長してくる中、大きな壁として存在感を見せてくれることを期待しています」
――今年は3日目にマスターズ部門のハイブリッドゲームスが開催されますが、主催者としてこの大会の意味合いを教えてください。
「じつは僕自身、2019年に初開催されたJapan Championshipのマスターズ部門に出場して、日本2位に入賞しました。ただ、第2回以降は参加人数や大会日程などの関係もあり、マスターズ部門は開催されなくなりました。
CrossFitの競技シーンでは、どうしても若い選手たちが中心になって活躍します。でも、その選手たちが活躍できる環境や、日本のCrossFitコミュニティを支えているのは、僕も含めてCrossFitが大好きな大人たちの存在も大きいと思っています。
だったら、そんな大人たちにも本気で目標にできて、日頃のトレーニングの成果を発揮できる舞台をつくりたい。そんな想いからHYBRID GAMESはもともとチャリティーイベントとしてスタートしました。今年も大会を開催することになり、ただ参加するだけのイベントではなく『日本一の大人を決める大会をつくろう』という現在の形になりました。
今年はJapan Championshipと同じ舞台で3日目に開催します。若いトップアスリートが日本一を争うJapan Championshipがあり、その舞台を支えてきた大人たちも日本一を目指して戦うHYBRID GAMESがある。この3日間を通して、年齢に関係なくCrossFitに本気になれることを伝えられたらと思っています」
――ハイブリッドゲームスならではの見どころは?
「一番の見どころは、出場する選手たちの年齢です。HYBRID GAMESは、35-39歳、40-44歳、45-49歳、50-59歳、そして60歳以上と、さまざまな年代の選手たちが出場します。大人になると仕事や家庭などもあって、何か一つのことに本気で熱中する機会は少なくなっていくと思います。
そんな中で日々トレーニングを積み重ね、この日のために準備してきた大人たちが、年齢に関係なく本気で日本一を目指して戦います。とくに見てほしいのは、単純に『この年齢ですごい』ということではなく、大人になっても目標を持って、本気で何かに熱中している姿です。50歳でも、60歳を超えても、まだまだ強くなれるし挑戦できる。そんな姿もHYBRID GAMESならではの見どころだと思います」


