ヒップアップに効果的なトレーニング種目は?【石井直方のVIVA筋肉! 第12回】




“筋肉博士”として知られる石井直方先生が、経験と最新情報に基づいて筋肉とトレーニングの素晴らしさについて発信する連載です。第12回はお尻トレーニングの具体的なメニューを紹介します。

大殿筋を中心に鍛えるメニュー

前回は「発達したヒップは、人間らしさの象徴である」と書きました。
お尻はプロポーションの美しさを表現する要素であると同時に、元気よく歩き続けるためにも重要な筋肉です。
今回は具体的なお尻のトレーニングについて説明してみようと思います。

まず下半身の筋肉をつける最もベーシックな種目であるスクワット。お尻の強化に重点を置く場合は、オーソドックスなスタイルよりも少しお尻を後ろに突き出すようにすると効果的です。

©seventyfour-stock.adobe.com

さらに、大殿筋に刺激を加えるには、脚を後方に伸ばすヒップエクステンション系の種目を取り入れるといいでしょう。

また、脚をサイドに開くレッグアブダクションは、中殿筋・小殿筋まわりを鍛えることができます。
これらの種目で、お尻の上部に筋量をつけていくようにすると、綺麗なヒップアップができると思います。

ただし、大殿筋をあまり使わずにアブダクション系の種目ばかり行っていると、四角い形のお尻になってしまう可能性があるので注意しましょう。全体に張りとボリュームがあり、丸みのある形にするには、ヒップエクステンション系の種目をたくさん行なうことがポイントです。

仰向けになってお尻を上げるヒップリフト、バーベルを使ったヒップスラストなども効果的です。
ヒップリフトは、筋力がついてきたら片脚ずつ行なってもいいでしょう。ヒップスラストは、大殿筋に対して持続的かつ全面的な負荷をかけやすく、脚の力も使ってバーベルをコントロールしやすいので、トレーニングに慣れていない女性でも取り組みやすいと思います。また、負荷を持ち上げながらお尻に意識を持っていきやすいので、比較的早く効果が出ることが期待されます。

©ANR Production-stock.adobe.com

ただ、ヒップスラストのような種目は、足の置き位置や関節角度などによって持ち上げられる重さが変わってくるので、筋肥大のためのスタンダードとされる80%1RM(1回上げられる重さの80%)といった負荷の設定が困難だと思います。
ですから負荷の設定にはそれほど執着せず、「お尻に効いている」という感覚を大事にすればいいと思います。トレーニングによってお尻の筋肉が追い込まれた、お尻に鉛が入っているような感覚がある、といった状態(昔ながらの言い方をすると「ケツが割れる」という状態)になることを目指せば、おのずと結果はついてくるでしょう。

他にも、バックエクステンションの下半身バージョンであるリバースハイパー(エクステンション)、片脚で行うブルガリアンスクワット、スクワット、ベンチプレスとともに「ビッグスリー」と呼ばれる基本種目の一つであるデッドリフトなど、ヒップアップに効く種目はたくさんあります。
まずは自分のレベルや好みに合ったメニューをいくつかピックアップし、続けてみてください。お尻はもともと筋肉量がありますし、トレーニングに対する反応も悪くないので、ボリュームをアップさせることはそれほど難しくないと思います。

逆に、お尻を小さくしたいという人もいるかもしれません。
その場合、「筋肉を落とす」ことを考えるのは間違いで、「余分な脂肪をとる」と考えなければいけません。
というのも、そもそも女性はお尻についている脂肪が多いので、筋肉を失ってしまうと、どうしようもなくたるんでしまう可能性が高いからです。

むしろ前述したヒップリフトやヒップエクステンションといった力学的ストレスが比較的小さな種目で、高回数を繰り返すようにするといいでしょう。低負荷・高回数で、大きくたくさん動かすタイプのトレーニングを行うことで、それなりに筋肉をつけながら、脂肪を減らしていくことが可能になります。

©undrey-stock.adobe.com

私は研究者なので正確な表現をしておくと、お尻をよく動かすことで、お尻の脂肪を選択的に落としていけるかと言うと、現時点ではYES or NO。筋肉を動かすことでマイオカインという物質が分泌されれば周辺の脂肪は落ちやすくなるはずですが、それはまだ実験的には立証されていません。メカニズム的にはそうなるはずですし、経験的にもそうなると言い切りたいところですが、まだ教科書に載るようなレベルの証明はなされていないのが現状です。

いずれにせよ、お尻だけの脂肪を落とそうとするのは効率的にもよくありません。お尻の筋トレをしながら、全身の脂肪を落とすエアロビックな運動やカロリーコントロールを組み合わせたほうが、ずっと効果はあると思います。

※本サイトでも岡部友さんによるお尻トレーニングの様子を記事と動画で紹介しています。
記事はこちら()、動画は下記よりご覧いただけます。

石井直方(いしい・なおかた)
1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学・大学院教授。理学博士。東京大学スポーツ先端科学研究拠点長。専門は身体運動科学、筋生理学、トレーニング科学。ボディビルダーとしてミスター日本優勝(2度)、ミスターアジア優勝、世界選手権3位の実績を持ち、研究者としても数多くの書籍やテレビ出演で知られる「筋肉博士」。トレーニングの方法論はもちろん、健康、アンチエイジング、スポーツなどの分野でも、わかりやすい解説で長年にわたり活躍中。『スロトレ』(高橋書店)、『筋肉まるわかり大事典』(ベースボール・マガジン社)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など、世間をにぎわせた著作は多数。
石井直方研究室HP

【バックナンバー】

発達したヒップは、人間らしさの象徴【石井直方のVIVA筋肉! 第11回】
人間はユニセックス化に向かっている?【石井直方のVIVA筋肉! 第10回】
女性の“くびれ”はナチュラルな筋トレでつくられる【石井直方のVIVA筋肉! 第9回】
ウエイトトレーニングの起源~日本編 【石井直方のVIVA筋肉! 第8回】
ウエイトトレーニングの起源【石井直方のVIVA筋肉! 第7回】