アスリートから一般のトレーニーまで、それぞれのトレーニングとの向き合い方を紹介する連載「My Training Life」。今回登場するのは、今年から新設されたモノキニ着用のカテゴリー『SBC MONOKINI』で、初出場・初優勝を飾った塚原奈美さん。笑顔がキーワードだという彼女のトレーニングライフに迫る。
人を笑顔にすること。それが塚原奈美さんの、人生におけるすべての原動力となっている。
振り返れば幼少の頃から、自然とベクトルは自分ではなく他人に向けられていた。人を思いやった行動をとると、周囲の人が笑顔になる。その姿を見るのが、純粋にうれしかった。
「昔から『これをしておけば次の人がラクかな』とか、そういうことを普段から考えるような子どもでした。人のために何かをやるって素敵だなと思うようになってからは、自然とそれができるようになった気がします」
物心をつく前に植え付けられた意識は、いつしか将来の夢という具体的なものへと形を変えた。人を幸せにするためには、どうすればいいのだろう。将来を見据える上で、塚原さんが導き出した答えの一つが警察官だった。
「正義感もあるほうだと思っていて、人を笑顔にするには警察官だと思ってずっと目指していました。ただ高校在学中と卒業してから2回試験を受けたんですけど残念ながら落ちてしまいました。その時は正直、いろいろと悩みました」
3度目の正直か、それとも心機一転を図って別の道を模索するか。深く考えたからといって、そう簡単に方向性が決まるようなものでもない。ブレなかったのは、職を探すにあたってのキーワード。「人のためになる仕事」を探す過程で足を運んだハローワークでの出会いが、彼女のその後の道を一変させることになった。
「ハローワークで私を担当してくれた方が、今のホットヨガスタジオのお客様だったんです。いろいろと相談に乗ってもらっているうちに、『空きが出たからやってみない?』って誘われました。本当に急な話で、しかもその方からは『明日までに決めてね』って言われました(笑)」
未経験であることに加え、そのスタジオは常連が多い店舗だった。「私で務まるのだろうか」という一抹の不安はあったが、彼女が選択したのは数時間前までは考えもしなかった新天地での仕事だった。
子どもの頃から体を動かすことが好きだったことも、その気持ちを後押しした。小学生の頃は姉の影響で陸上競技に励み、高校生になると吹奏楽とともにマーチングバンドでカラーガード(フラッグなどを用いて視覚的表現を行なうパート)を務めていた。関東で開催される大きな大会に出場していたこともあり、ハローワークの担当者にはすっかり人前でも物おじしない性格だと思われていたという。
「カラーガードで大きなステージにも立っていたので、その方からは『人前に立つのも大丈夫じゃない?』と言われました。でも、じつは人前は苦手なほうなんですよ(苦笑)。すごくあがり症で、本当に緊張するんです。ただ人生経験になるし苦手意識を克服するチャンスでもあると思ったので、その場でやるしかないと即決しました」
別の角度から人を喜ばせることができる何かを探していた時に、降ってわいたように現れたヨガインストラクターとしての道。「お客様の体を変えることでお客様の笑顔を見たい」。もはや迷いはなかった。
人との出会いで新たな生きがいを見つけた塚原さんは、お客様というツールでふたたび大きな目標を見つけることになる。美しく磨かれた肉体を競う『Super Body Contest(SBC)』。トレーニングに没頭するうち、人の体を変える喜びに加えて「自分自身ががんばることで誰かのがんばる力になりたい」という気持ちも芽生え始めた。
「お客様の中でSBCに出場している方がいらっしゃって、その方に誘っていただきました。もともと自分の体で勝負するということに興味がなかったわけではないんですが、自分にはできないという抵抗感があって避けていたんです。でも誘ってくれた時に『これは自分を変えるチャンス』だと思って、そこから8月6日の『SBBF×SBC』(静岡)に向けて本格的にトレーニングを始めました。それが今年4月のことですね」
最初はトレーニングが厳しくて、何度も心が折れそうになった。その上でSNSでは同大会に出場するライバルたちが、インスタグラムで鍛え抜かれた美ボディをアピールしている。「本当に私にできるのだろうか」。歯を食いしばってパーソナルトレーナーの田中裕士氏(ILUTY FITNESS CLUB)が提示するメニューをこなしながら、自問自答を繰り返した。
「なんでこんなに自分を追い込まなければいけないんだろうって思うこともありました。でも変わっていく姿を見ていると、やっていることに意味があると思えましたし、なにより体が良くなっていくと自分をどんどん好きになれると思った自分がいたんです」
そこからは「好きこそものの上手なれ」を体現する。本格的な準備期間はわずかながら、今年から新設されたモノキニ着用のカテゴリー『SBC MONOKINI』で、初出場・初優勝という飛び級の勲章を手にしてみせた。
「自分の中ですごくモチベーションが高まりました。静岡の時に減量が進んでお腹まわりがすごく締まったので、トレーナーさんからは『お腹を出したほうがいいね』と言っていただいています。次は鎌倉(11月13日、鎌倉芸術館で開催される『KAMAKURA11』)に出場するんですけど、モノキニとSBCの予選。そこで闘える選手になるために日々、がんばっています」
現在は鎌倉だけではなく12月10日(土)に開催される『Super Body Contest(SBC) 2022 FINAL』への出場も目指し、課題でもある肩と背中の改善に取り組んでいる。お客様のファン、SNSのフォロワーが増えるなど、自身が大会に出場することで他者の影響力になることが実感できたことから、彼女の意識は以前にも増して高まっている。
「初めてやったことが影響力につながると感じたので、もっと自分を通してダイエットに苦しむ人だとか、自分の体をなかなか変えられないと悩んでいる方をサポートできる存在になりたいです。ボディメイクの楽しさをSNSなどを通じて伝えていきたいと考えているので、11月、12月でどんどん実績を積み上げて、また新たなステージに行けるように自分を高めていきたいです」
人を笑顔にすることで自分が笑顔になり、自分が笑顔になることで人がまた笑顔になる。この究極とも言える無限ループを継続していくため、彼女はこれかも他人軸と自分軸を兼ね備えたトレーニングライフを続けていく。
取材・文/松浦俊秀
写真/木村雄大
写真提供/塚原奈美