これまで「走る」「投げる」といった動作を取り上げ、そのスキルを解説してきましたが、今回は「跳ぶ」、ジャンプする動作のスキルについて述べたいと思います。
跳ぶためには大きな力が必要
地球上で生活している私たちは、つねに重力の影響を受けています。自分の身体を宙に浮かせるためには、その重力以上の力で地面を蹴る必要があります。蹴る力と同じ力を地面から受けていて、これを地面反力と呼びます。
この地面反力は、身近な体重計などでも目で見て感じることができます。体重計の上に乗って、軽くヒザを曲げ伸ばしするだけでも数値が大きく変わるのがわかると思います。実際にジャンプする際には、縄跳び程度の小さな跳躍でも体重の3倍程度の地面反力を受けています。
反動動作を使うのがポイント
では、より大きくジャンプするためにはどうすればいいのでしょうか?
1つは連載の第1回でも述べた反動動作を使うことです。垂直跳びのようにその場でジャンプする場合、直立姿勢からヒザを勢いよく曲げて素早く切り返して跳ぶと、より大きくジャンプできるのは多くの人が知っていることでしょう。これは太ももなどの主働筋の筋と腱が一度引き伸ばされて(ストレッチ)から収縮(ショートニング)することで、より大きな力を発揮できるのです。これを「ストレッチショートニングサイクル」と呼びます。
アキレス腱などの腱は、ゴムのように伸ばされた後に縮む特性を持っています。ジャンプの前に勢いよくしゃがむと、腱が引き伸ばされてエネルギーが蓄えられます。そのエネルギーが地面を蹴る際に使われて、より大きく跳ぶことができるのです。
動物で最も大きくジャンプできるのはカンガルーで、13mものロングジャンプを連続して行うことができますが、それを可能にしているのも下腿の非常に強いアキレス腱なのです。
また、筋肉は急激に伸ばされると、切れてしまうのを防ぐため脳ではなく脊髄から「縮め」という司令が送られます。これが第1回でも述べた「伸張反射」で、反動を使ったジャンプは主にこの2つの原理によって大きく跳ぶことができるのです。
反動効果の補助
ヒザの屈伸運動による反動をより効果的に使うためには、腕振りの動きも重要です。具体的には直立姿勢の時に両腕を後に振っておき、ヒザを屈伸させる際にその腕を前から上へと振り上げるのです。腕を振り上げることの反作用によって下肢、特に股関節の発揮するパワーが増大し、より高く跳ぶことができるのです。
ただし、腕を振り上げるタイミングがズレてしまうと、その効果がなくなるばかりか跳躍の妨げにもなります。地面を蹴る力(地面反力)が最大になる時に、腕を振るスピードが最大になるようにするのが最も効果的です。
1955年、群馬県出身。東京大学大学院教育学研究科修了。教育学博士。東京大学大学院総合文化研究科教授。日本バイオメカニクス学会会長。(一社)日本体育学会会長。国際バイオメカニクス学会元理事。身体運動を力学・生理学などの観点から解析し、理解するスポーツバイオメカニクスの第一人者。『<知的>スポーツのすすめ』(東京大学出版会)、『骨・関節・筋肉の構造と動作のしくみ』(ナツメ社)、『運動会で1番になる方法』(ASCII)など多くの著作がある。