【知ってる?パラスポーツ】“車いすの格闘技“ウィルチェアーラグビーの魅力に迫る!




5月24日から27日にかけて行われた『2018ジャパンパラ ウィルチェアーラグビー競技大会』では見事に日本代表が優勝。今回は、改めてウィルチェアーラグビーの魅力に迫っていきます。
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エキサイティングなぶつかり合いが
ウィルチェアーラグビー最大の魅力

ウィルチェアーラグビーとは、その名の通り、車いすで行うラグビーです。ただし、通常のラグビーとはルールが大きく異なります。まず人数は4人対4人。そして、試合時間は8分×4ピリオド、バスケットボールと同じ広さのコートでプレーが行なわれます。

ボール(バレーボール5号球を基に開発された専用球)を相手陣地のほうへ持って運び、ポスト(コーン)で仕切られたラインに車輪がのる、あるいは通過することで1点を得られるところはラグビーと似ています。なお、これまではこのプレーを「ゴール」と呼ばれていましたが、よりラグビーという競技の色を出すために、2018年1月からは「トライ」と呼ばれるようになりました。

ディフェンス側の選手たちは、トライを目指して攻めてくる相手を阻止するわけですが、ウィルチェアーラグビーではパラスポーツでは唯一、車いすを相手にぶつけて相手をストップするタックルが認められています。その様子は、わかりやすく言うならば、まるで交通事故が発生した時のような“ガシャン”という轟音が鳴り響きます。初めて見る人は悲鳴を上げてしまうかもしれません。

余りの激しさから、“マーダーボール(MURDERBALL=殺人球技)”と呼ばれていた歴史があるほどです。試合中は、車いすが故障したりタイヤがパンクしたりすることは日常茶飯事。選手はもちろん、ピットの人たちも大忙しです。

車いすのタイヤはすぐに交換できるように設計されている

 

試合に臨むにあたり、多くのタイヤが準備される

激しさこそ競技の一番の魅力ですが、注目ポイントは、選手たちのクラス分けによる戦術。各選手は障害の内容や程度により0.5~3.5点まで0.5点刻みで持ち点が付与されていて、4選手の合計が8.0点以下になるようにチームを編成しなければなりません。また、チーム編成において男女の区別はなく、女性選手が加わる場合は、1名につき持ち点の合計から0.5点マイナスされます。

持ち点が高い選手(ハイポインター)は車いすを速くこげたり、トリッキーな動きができたりとプレーの幅も広く、チームの得点源としての活躍が期待されます。逆に持ち点が低い選手(ローポインター)は、相手の攻撃を阻むディフェンスとして活躍をすることが多く、持ち点のなかでいかにチームを構成するかが大切になります。選手の特徴に応じた役割の違いも、試合を観戦する際は注目してほしいポイントです。

加えて、役割に応じて車いすも異なっており、大きく分けて攻撃型と守備型の2種類があります。攻撃型は、細かいターンや動きができるようにコンパクトに、さらに激しいぶつかり合いから車いすを守るバンパーがついています。守備型は、相手の動きを止めるために前に突き出したバンパーが特徴です。

攻撃型の車いす
守備型の車いす

その他、ドリブルやスローイン、選手交代、ファウル・バイオレーション……など細かいルールがあり、最初に観戦した際はそれを理解するのは少し難しいかもしれません。特に、「時間」に関するルール(例えば、コートにボールが入ってから40秒以内にゴールしなくてはならないなど)はプレーの判断に大きな影響を及ぼします。
※公式ルールは→こちら(一般社団法人ジャパンウィルチェアーラグビー協会HP)

それはちょっと不安だな……と思うかもしれませんが、先日のジャパンパラ競技大会などの大会では、会場内で実況&解説の声が流れており、基本的なルールから、「いまあの選手はなぜあのプレーをしたのか?」といったところまで丁寧に説明してくれるので、非常にわかりやすく観戦することができます。

障害の有無に関係なく、選手たちはアスリート

コート上で戦う選手たちはみな何かしらの障害を持っていますが、車いすをこぎながら、不安定な状態で正確なボールを投げたりキャッチしたりするのは簡単ではありません。加えて、ウィルチェアーラグビーでは激しいタックルが襲ってきます。

そのようなプレーを可能にしているのは、普段から並大抵ではないトレーニングを積んでいるからに他なりません。選手たちのカラダを近くでみれば、強靭な肉体に驚くでしょう。

以前、現在も日本代表のエースとして活躍する池崎大輔選手(北海道Big Dippers)は取材で、こう言いました。

「この競技なら健常者の人と勝負しても、負ける気はしない」

障害の有無に関係なく、彼らはアスリートなのです。

日本代表のエース池崎大輔選手

ぜひこれを機に、ウィルチェアーラグビーを観戦してみてはいかがでしょうか。2016リオデジャネイロオリンピックでは銅メダルを獲得し、2020東京オリンピックでは初優勝を目指す彼らのプレー、その迫力をぜひ近くで見てみてください。

文・写真/木村雄大