筋肉の進化を考える② 「平滑筋」と「骨格筋」、それぞれの役割【石井直方のVIVA筋肉! 第31回】

“筋肉博士”石井直方先生が、最新情報と経験に基づいて筋肉とトレーニングの素晴らしさを発信する連載。今回のテーマは「骨格筋」と「平滑筋」。2つとも体の中にあるものですが、その違いを知っていますか?

平滑筋→斜紋筋→横紋筋と、筋肉が進化した理由とは?

今回は3種類の筋肉(前回参照)のうち「骨格筋」と「平滑筋」の特徴を紹介しながら、その進化について考えてみたいと思います。

私たちの動作に関わる骨格筋は、まず素早く大きな力を出すことが求められます。さらに、もう一つ重要なのは再現性の高さ。動くたびに違う縮み方をすると不都合なので、つねに同じような収縮ができるように設計されています。

骨格筋はその長軸と垂直方向に細かい縞模様があるため「横紋筋」とも呼ばれます(正確には、骨格筋と次回解説する心筋を合わせて横紋筋と言います)。横紋は、収縮を担う2種のフィラメント(太いフィラメントと細いフィラメント)が筋線維(筋細胞)の中で精密機械のように互いに規則的に配列しているために、全体として規則的な縞模様に見えるものです。このような構造をとることで、再現性のよい、同期した収縮が可能になります。

横紋構造には弱点もあります。
それは作動域(力を発揮できる長さの範囲)が狭くなってしまうこと。
規則的な構造をとることで、ある限られた範囲では再現性の高い同期した収縮が可能ですが、筋線維が極端に短くなったり長くなったりした状態では力が出なくなってしまうのです。

そもそも筋には、長さとともに発揮できる力が変わるという特徴(「長さ-張力関係」と言います)があり、最大の力を出せる長さも決まっています。その長さを「至適長」と言いますが、至適長より短くなっても長くなっても、発揮できる力は弱くなります。
この長さ-張力関係は、筋収縮に係わるタンパク質の配列構造によって決まるのですが、横紋構造を持つ骨格筋の長さ-張力関係は「裾野が狭い」、つまり骨格筋はあまり広い長さの範囲では力を発揮できないのです。

それに対し、内臓や血管の壁を構成している平滑筋には横紋構造がありません。収縮をする基本的なメカニズムは骨格筋と同様なので、太いフィラメントと細いフィラメントはありますが、これらはあまり規則的に配列していません。
つまり、骨格筋のように構造的な制約が強くないので、作動域がずっと広くなります。かなり長いところまで引っ張られても、逆に極端に短くなった状態でも力を発揮することができます。

このように作動域が広いという特徴は、内臓や血管のように管状や袋状になっていて、その動きが骨格で制約されない器官を動かすという点では好都合です。たとえば、たくさん食べて胃袋が大きくふくらんでも、平滑筋はしっかり機能するので胃が活動できなくなることはありません。
ただ、収縮を担う構造がファジーであるがゆえに、骨格筋のように全体が同期して素早く力を発揮したり、再現性の高い収縮をしたりすることは苦手。それが平滑筋の弱点です。

内臓や血管の壁を構成する平滑筋には、動作を生み出す骨格筋とはまったく違う特徴がある。©moonrise‐stock.adobe.com

動脈の壁が平滑筋の層でできているのは、血圧や血流を変えるために筋肉の力で動脈を収縮させる必要があるからです。長時間にわたって力を維持することも重要なので、哺乳類の平滑筋には「キャッチ収縮」(第27~29回で解説した貝の平滑筋が発揮するもの=一度強く収縮したら、力を発揮しなくても収縮状態が維持される)と似た仕組みがあります。
完全なキャッチ収縮ではなく「ラッチ収縮」と呼ばれるものですが、ほとんどエネルギーを使わずに力を維持できる点はキャッチ収縮と同様で、これによって長時間の血圧コントロールが可能となっています。
また、キャッチ収縮の場合と同様に、アセチルコリンやアドレナリン(キャッチの場合はセロトニン)といったホルモンや神経伝達物質によって張力維持の状態がコントロールされています。

骨格筋の場合、力が長時間維持されてしまうという性質は不都合です。力を自在に緩めることができないと、次の運動に移る際に効率が悪いので、むしろなるべく素早く弛緩できたほうがいいわけです。

このように考えると、平滑筋のほうが原始的な筋肉であり、より素早くパワフルで再現性の高い動作が必要になったことで、それが骨格筋に進化していったととらえるのが自然でしょう。

では、平滑筋から骨格筋への進化は、いつ、どの段階で起こったのでしょうか。

進化をさかのぼっていくと、魚類には哺乳類と同様の横紋筋を見ることができます。
両生類、爬虫類、鳥類も同様。骨格筋は文字通り骨につながっている筋肉なので、生き物の体に骨格というものができると同時に、それを効率よく動かすための工夫として横紋構造とその機能ができあがったと考えられます。
エビ・カニなどの節足動物や昆虫の筋肉も横紋筋ですが、これらの動物は外骨格を持っています。

過渡的な筋肉として、斜めの縞模様が入った「斜紋筋」というものがあります。
これはゴカイやミミズなどの環形動物やセンチュウなどの線形動物の体壁筋に見られます。長軸方向に見る角度によって、横紋筋のように見えたり、平滑筋のように見えたりするので、横紋筋と平滑筋の中間的な特徴を持つ筋肉と言えるでしょう。
軟体動物であるイカの胴体(外套膜)の壁も斜紋筋でできています。
これらの生き物の体は「静水圧骨格」と呼ばれ、袋の中に水が入っているような構造になっています。筋肉の力に対して体内の水圧が拮抗的な働きをし、袋状の体を締めたり緩めたりすることで移動します。イカが逃げる際のジェット噴射もその仕組みを利用したものですが、この場合にも同期した素早い収縮が必要になります。

このように体そのものを柔軟に使って動くためには、骨格筋のように規則正しいしっかりした構造よりも、平滑筋的なファジーな収縮が求められます。
しかし一方で、敵から急いで逃げるような時には骨格筋に要求されるようなスピードが必要です。両方の特徴を兼ね備えるために、これらの生き物には斜紋筋という中途半端な筋肉が残ったのでしょう。

あらためて進化の順に追っていくと、まずは平滑筋から斜紋筋になり、さらに動作の再現性や力強さを求められたことで、斜紋筋が横紋筋になっていったと考えられます。

石井直方(いしい・なおかた)
1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学・大学院教授。理学博士。東京大学スポーツ先端科学研究拠点長。専門は身体運動科学、筋生理学、トレーニング科学。ボディビルダーとしてミスター日本優勝(2度)、ミスターアジア優勝、世界選手権3位の実績を持ち、研究者としても数多くの書籍やテレビ出演で知られる「筋肉博士」。トレーニングの方法論はもちろん、健康、アンチエイジング、スポーツなどの分野でも、わかりやすい解説で長年にわたり活躍中。『スロトレ』(高橋書店)、『筋肉まるわかり大事典』(ベースボール・マガジン社)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など、世間をにぎわせた著作は多数。
石井直方研究室HP