選手と企業にWin-Winをもたらす「アスナビ」~前編【佐久間編集長コラム「週刊VITUP!」第69回】

VITUP!読者の皆様、こんにちは。日曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか?

先日、アスナビ説明会に参加させてもらいました。この「アスナビ」とは、2010年10月にスタートしたJOCの就職支援制度のこと。生活環境を安定させながら競技活動を続行したいと考える現役のトップアスリートと、それに理解を示す企業とをマッチングし、スポーツ界と産業界にWin-Winの環境をつくることを目的とした事業です。こうしたアスリートの就職支援制度というのは、実は世界の中でも日本が最初に取り組んだ制度になります。

連載第3回で書いたように、大学を卒業すると、競技を続行できる環境がないアスリートはたくさんいます。学生のうちに世界レベルの結果を残せばスポンサーがついたり、大手企業から声がかかったりということもありますが、それは一握りのトップアスリートだけ。競技を続けていけば世界レベルになれる可能性を秘めた選手でも、学生のうちに結果を出せないと現役を続けられる環境を失う恐れもあるのです。こうした状況を解決する一つの手立てとなるのが、このアスナビです。

アスナビの対象となる選手は、①オリンピック・パラリンピックへの出場経験を持つ選手②各競技団体の強化指定選手③新卒で競技団体の推薦を得た選手となります。③があることで、成長過程の選手にも収入を得ながら安心して競技を続けられる環境を得られるチャンスが増えます。実際、これまでに延べ179社で280名のアスリートが雇用されています(夏季競技178名、冬季競技58名、パラ競技44名)。そして2019年6月現在、現役続行のための就職支援希望アスリートは、新卒を中心に46名(夏季競技34名、冬季競技10名、パラ競技2名)がエントリーしています。学生レベルでは当然トップの実績を持ち、国際大会の舞台も経験している選手がほとんどです。

ではどのようにして企業と選手のマッチングは実現するのか? まずJOC公式サイト内のアスナビページにアクセスすると、登録しているアスリートのエントリーシートを見ることができます。このエントリーシートにはアスリートの実績や自己PRのほか、希望職種や勤務地や希望勤務日数が記載されています。それを見て気になるアスリートがいたら専用フォームからの問い合わせが可能です。

アスナビの最大の特徴であり魅力なのは、企業はスポンサーではなく、選手はお客様ではないということです。スポンサーとは広告や宣伝を目的にアスリートに契約金を支出する広告主のこと。一方、アスナビはアスリートを社員(正社員・契約社員)として採用するので、企業側は広告主ではなく、雇用主となります。つまり、選手はあくまでも社員なのでお客様ではなく、企業に求められた仕事をすることになります。企業が提示する雇用条件によって、勤務体系は様々だと思いますが、週に2~3日は勤務する形が多いようです。もちろん、企業によっては競技活動を業務に含む場合もあり、いずれにしてもアスナビに理解を示してくれた企業に就職することは、アスリートが競技を続けていく上でプラスの効果をもたらします。

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前述したように、これまで多くのアスリートがアスナビによって就職しています。実際にアスナビが生み出す、選手側、企業側、それぞれのメリット、効果については、次回の後編で紹介しましょう。それではまた来週。

 

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアンの取材を手がける。