内田真弘の「ゼロ式姿勢調律法(ZAT)」無意識の身体を整えると、3つの脳が調和し、リカバリー能力が高まる!




ウエイトトレーニングや空手での身体づくり、そして鍼灸治療などのケアを通して、アスリートと接してきた内田真弘氏。内田氏が塾長を務める「心体義塾」では、現代医学(西洋医学)と東洋医学の両面からより良い身体の“本質”を学び、それを開花させる指導を行なっている。アスリートが目指すべき、「身体」のありようとはどんなものか? そしてそれを実現するための呼吸法「ZATゼロ式姿勢調律法」のメソッドを聞いた。

「僕は17、18歳頃からウエイトトレーニングを始めて、キャリアとしては40年近くあります。今でもバーベルを上げていると、毎回いろんな発見がある。スポーツで記録を更新したり、結果を出すことを目的にするのも悪くはありませんが、本当に身体を養うにはそれ以外の要素にも目を向けることが大切です」と内田真弘氏。

内田氏は鍼灸師としてアスリートを治療するほか、スポーツトレーナーとしても活動。次第に身体観やスポーツの在り方について、独自の見解を持ち始めた。たとえば巷のトレーニングには、成功だけが評価の対象となる“結果重視型”、そして泥臭く練習を重ねる“プロセス重視型”があるが、内田氏の考え方はそのどちらとも異なる。内田氏の開発したZATメソッドでは、西洋医学と東洋医学に基づいた身体の仕組みを元に、トレーニングを行なっている。

「トレーニングは結果にコミットするほか、プロセスも重要です。まずZATメソッドでは、身体の司令塔である『脳』の構造を西洋医学と東洋医学から見ていきます。脳を西洋医学的に見ていくと、(1)呼吸や生殖などの『本能』を司る“爬虫類脳”の脳幹、(2)人とのつながりなど『情緒』を司る“感情脳”の大脳辺縁系、(3)思考や概念など『理性』を司る“人間脳”の大脳新皮質の3つに大きく分けられます。“結果重視”のトレーニングは(3)の理性の脳だけが優位になった状態。一方、“プロセス重視”のトレーニングは、(1)(2)の脳ばかりで、(3)が上手に使えていない状態です。しかし実際のところ、3つの脳は相互に影響を与えあっていて、3つの脳がバランス良く和を結んでいるのが理想的な身体の状態です」(内田氏)

トレーニングを行なう際は、(3)の理性の脳で目標を設定しながらも、(1)の本能、(2)の情緒的な脳も鍛えていく必要があるという。実際に人間が理性(思考)で制御できるのは10%以下。情緒や本能といった無意識的な部分が行動を支配しているからだ。つまり、身体のパフォーマンスを上げるには、自分の意識に及ばない部分をいかに鍛えるか、といったことが重要なのである。

内田氏が提唱するのは、潜在意識(脳幹、大脳辺縁系:感覚、感情)と顕在意識(大脳新皮質:脳幹)の両方を使ったトレーニング法。現代のスポーツやトレーニングは、意識(大脳新皮質)で操作するものが多いが、そうではない脳の領域を鍛えていく。“人間は思考の力だけで頑張ろうとしても、経験がないと耐えられない”という考えからだ。

「人間の本質は、痛みが出たときと、恐怖を感じたときに現れます。つまり、非常事態に陥り、潜在意識がむき出しになったとき。その状態からリカバリーをするためには、『いかに息を詰まらせず、呼吸を続けるか』ということが必要です」

通常、「頑張る」というと、身体を緊張させて踏ん張る――つまり、骨格筋を収縮させるのが正しい身体の反応だと思うかもしれない。しかしその働きは、理性を司る大脳新皮質によるもの。苦しい状態で平常心を保つには、「無意識が支配する脳幹の働き=呼吸」を整えることが効果的なのだ。東洋医学では、「呼吸=気」であり、気が巡っていない状態は、気が重い、病気になるなどの「身体言葉」にある通り、良いパフォーマンスを発揮できない。

「呼吸において大事なのは、鼻呼吸。鼻呼吸と口呼吸では耐えられる負荷が変わってきます」と内田氏。

鼻呼吸をしていれば重い負荷がかかっても体が崩れることはない

「そのため、ZATゼロ式姿勢調律法では、鼻呼吸とともに、蹲居(そんきょ)や四股踏みなど、地味できついトレーニングをひたすら行ないます。このとき、身体が崩れそうになりますが、息を止めずにいられると、耐える力が上がります。息を身体にしっかり入れるには、まっすぐに立つことが大事。現代人の中は、顎が上がって脇が緩み、腰が抜けている人がいますが、姿勢が悪いと息は身体が十分に入りません」

逆に、姿勢が良くなり、きつい状態でも呼吸ができるようになると、3つの脳が調和して、身体的なパフォーマンスが高まる。

「成功するためのプロセスを組むためには、まず姿勢。これはアスリートだけに限りません。直感力が高く、ひらめきがある人は必ず姿勢が良く、視野が広くてすべてを見通す力があります」

 

ではここで、ZATで行なう蹲居(そんきょ)のやり方を紹介しよう。

①足を開き、足のつま先を外に向ける。
②足のかかと、小指球、母指球の3点が床に着地している感じを味わう。
③身体のバランスに目を向ける。

左右の足の内くるぶしの真下ぐらいに重心が来る感じに調整する。そうすると重心が身体の中心に来る。これが「腰が立ち、正しい姿勢になった状態」。

「これは、クラシックバレエの姿勢にも通じるものです。クラシックバレエの基本ポーズは、前後左右方向感覚が無く、重心がど真ん中にしかないので、逆に動きが偏らず、前後左右、どこにでもいける姿勢です」

④鼻呼吸を5回行なう。

鼻呼吸で5回深呼吸をして、この姿勢が耐えられるようであると良い。徐々に耐えられる時間を増やしていく。

蹲居の姿勢で鼻呼吸を行なうとき、足の母指球で踏ん張らないこと。前に突っ込むような感覚になり、猫背になってしまわないようにする。

「姿勢を保つために、筋肉を緊張させると、息が詰まり、余計なエネルギーを消耗してしまいます。つらい状態のときほど、姿勢を保ち、息を通してリラックスできる状態をつくっていくことが大事です」

このトレーニングは短い期間で効き目が現れるものではないが、継続していくことで確かな効果が現れる。また、ZATメソッドで教える「身体の智恵」は、社会に対する洞察力を養い、人間関係づくりなどにも役立てている。脳の3層構造を知り、東洋医学などによる身体の仕組みを学び、人と協調する大切さや、日本人の強みの活かし方などを知ることができる。

「ただ、そういった気づきや学びは無理やり得られるものではない。トレーニングの質を高らだめられるかどうかは、結局、本人次第です。やる気がある人が自然に集まればいいと思っています」

内田氏による“人間づくり”に惹かれ、大学生や治療家など、さまざまな人々が心体義塾に集っている。身体の底力を高めたいと望む人、そして人間を、己を深く知りたい人は、ぜひ心体義塾の扉を叩いてほしい。

 

取材・文/三島衣子
写真/中田有香

 

内田真弘(うちだ・まさひろ)
「心体義塾」塾長。ゼロ式姿勢調律法「ZAT」創始者。神奈川衛生学園専門学校 東洋医療総合学科 教員。筑波大学 理療科教員養成施設 非常勤講師。 鍼灸あん摩マッサージ指圧師。横浜国際プールはりきゅうマッサージ室室長。 ドイツのVPTアカデミーで日本人として初めてのPNF(固有受容体 神経,筋促通法) スポーツフィジオの認定資格者。西洋医学と東洋医学を融合し、心身一如の健やかさと、心技体の実現を目指した指導を行なう。『DVDでみるアスレチック・マッサージの実際』(日本鋼管病院 栗山医師との共著)など。