上に立つ人間の大事な仕事は決定すること【佐久間編集長コラム「週刊VITUP!」第108回】




VITUP!読者の皆様、こんにちは。日曜日のひととき、いかがお過ごしでしょうか? 暖かい日が増えて春到来、Tシャツシーズン到来です。

春といえば新しい1年の始まり。私が週刊誌の編集長になったのも4月人事でした。その編集長をやっていたときの一番大事な仕事は「決定すること」です。その週に起こった出来事、あるいはこちらから仕掛けた出来事の中から、表紙を決め、巻頭カラーを決めます。特集の内容はあらかじめ決めておいて、それ用の準備をする必要があります。とにかく自分が決定しなければ何も動きません。迷っていて決定に時間がかかれば、それだけ周りに負担をかけることになります。だから目の前で起こったこと、これから起こることに対して、スタッフが動くための方向性を決める。毎週毎週、決定を繰り返していかなければなりませんでした。

現在、東京2020オリンピックの開催をめぐり、何も決定ができない状況が続いています。予定通り7月24日に開幕するのか、あるいは1年以上延期するのか、それとも開催そのものを中止にするのか……開幕まであと4カ月となっても、不透明な状態が続いているのは、健全とは言えません。

先週は連日オリンピックスクエアへ行って、各競技団体の方々への取材をしておりました。取材のテーマではなかったものの、必ず話題になったのが新型コロナウイルスによるオリンピックの開催時期、開催の有無についての問題。多くの競技で本格化しているはずの代表枠をかけた大会が延期となっており、オリンピックの代表が出そろわない状態となっています。今後も様々な予選がさらに延期になるようだと、オリンピックの開催日までに出場選手を決定できない恐れも出てきます。こうした状況でも各競技団体に共通していたのは、やれるべきことをやっていくということ。7月24日に開幕されるものとして、最善の準備をしていくというのが、取材したすべての関係者に共通した意見でした。

オリンピックの雰囲気を感じようとオリンピックミュージアムを訪れる人は多い

国際オリンピック委員会(IOC)や東京都、大会組織委員会は予定通りの開催に向けた準備を強調しています。一方で各国のオリンピック委員会や競技の連盟から、選手の準備不足という視点からの延期の声もあがっており、新型コロナウイルスの今後の影響とともに、予断を許さない状況が続いています。

選手目線で考えたとき、現状で一番問題となるのは、すべての代表選手が決定していないこと。すでに出場が決まっている選手と、いつ予選が行なわれるかわからず、準備に四苦八苦している選手が混在している状況は、4カ月後にオリンピックが開催されると思うと、あまりフェアであるとは言えません。すべての競技で出場選手がすべて決定していれば、個人的には迷うことなく予定通り開催すべきだと思いますが、そうではない現状だとGOサインを出すのは難しいでしょう。

オリンピックレベルの選手ともなれば、一般の人が想像すらできないレベルの練習を積み重ねてきています。生活のすべてを注いでいると言っても過言ではありません。オリンピックの主役である選手たちのことを考えるのであれば、どんな決定であるにしろ、一日も早く正式なアナウンスをするべきではないでしょうか。予定通り開催、1年後に延期、大会の中止……決定事項ではなく、「いつまでに判断する」という、最終判断を下す日時の正式なアナウンスをするだけでも、選手側も気持ちの準備や決定に対するリアクションは変わってきます。

マラソン&競歩の札幌開催のように、事前のアナウンスなしに何の相談もなしに突然IOCの決定が下されるのは、もっとも避けたいところ。すべてをかけてオリンピックに臨もうとしている選手たちに、最大限の敬意を払い、少しでも良い環境で力を発揮できるように、それを支える側の人間が最良の選択をしてくれることを強く望みます。

決定する人間は覚悟と責任を持って決めるはずです。だとしたら、どんな決断を下すとしても、それを尊重したいと思います。

 

 

佐久間一彦(さくま・かずひこ)
1975年8月27日、神奈川県出身。学生時代はレスリング選手として活躍し、全日本大学選手権準優勝などの実績を残す。青山学院大学卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。2007年~2010年まで「週刊プロレス」の編集長を務める。2010年にライトハウスに入社。スポーツジャーナリストとして数多くのプロスポーツ選手、オリンピアンの取材を手がける。