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【My Training Life】Vol.11 松波俊哉(投資顧問会社勤務)

アスリートから一般のトレーニーまで、それぞれのトレーニングとの向き合い方を紹介する連載「My Training Life」。今回登場するのは、アセットマネージャーとして活躍し、経済報道番組のゲスト解説としても知られる松波俊哉さん。なぜ松波さんは、多忙の合間を縫って、怪我のリスクの高い総合格闘技に取り組むのだろうか?

平日朝5時45分、TVのスイッチをオンにすると、画面からオーラが漂う。テレビ東京系列の経済情報番組『ニュースモーニングサテライト』、きっと何かの競技で活躍した過去を持つであろう、ゲスト解説者の姿がそこにある。ニッセイアセットマネジメントに勤務する松波俊哉さん。アメリカンフットボール元日本代表だ。

「大学からアメリアンフットボールを始め、4年時に日本代表選手に選ばれました。始めたのは、自分のスピード、パワー、闘争心を最大限に生かせる競技だと思ったからです」

元NFL選手の脳震盪の後遺症が問題となるなど、怪我の多い競技とも言えるアメリカンフットボール。松波さんも、度重なる怪我に見舞われる。内側靭帯損傷、頚椎捻挫、3度の鼻骨骨折、恒常的な脳震盪。「アメフト選手としては軽傷です」とは本人の評価だが、結果、28歳で引退した。

子どもの頃から運動神経に優れ、小学生の時には体操、中学高校ではサッカーと、アメフト以前にも高いレベルで活躍してきた。スポーツ選手の燃え尽き症候群は、決して珍しくない現象だが、57歳の現在も激しく身体を動かし、汗を流している。取り組むのは、強度も怪我のリスクも高い競技、MMA(Mixed Martial Arts:総合格闘技)だ。

「今振り返ると、常にかなりの強度の競技スポーツに取り組んできました。そう考えると、燃え尽きるときは、多分、死ぬ時なんだと思います。強度のあるスポーツをやめる=自分ではなくなる、そう僕は思うんです」

松波さんがMMAを始めたのは、46歳の時のこと。それまで、動作の美しさに魅了されてムエタイに取り組んでいたが、キックボクシングのジムでMMAルールのスパーリングを行ない、これをきっかけに転向する。

「当時、タックルをするのも受けるのも、アメフト選手だった僕が負けるはずがない!と思っていたんです。ところが、MMAの選手を相手に、簡単にタックルされ、倒され、得意の打撃も全く使えず、撃沈しました。それが悔しくて、悔しくて。同時に、MMAは相当奥が深いぞ!と直感的に思ったんです。それでジムを探し、見つけたのが現在通っている道場、ALLIANCEです。代表の髙阪剛さんのお話をお伺いし、初老のジーサンがいうのも気持ち悪いですが、男が男に惚れ、即入会しました。この人の下で、MMAを楽しみながら強くなりたい!と思いましたね。『スポーツって楽しんでいいんだ!』と長い競技生活の中で初めて思った瞬間でした」

スポーツを楽しんでいいという感覚の欠如。現役選手時代、松波さんが抱いていた感覚だ。会社からの辞令を受け、フランス駐在を経験したが、この時、日本とは異なるスポーツ観に触れることになる。

「伝統的に、日本のスポーツ界は精神修行を含む『道』の世界を追求しがちで、失敗を恐れすぎる余り『挑む』ことに慎重になる選手が多いという印象があります。強い選手は、いい意味で『バケモノ』と呼ばれますが、言い換えると『形にハメ切れない規格外』の選手のということです。僕の若い時の日本は、世界に通用する『バケモノ』が育ちにくい悪しき環境だったとの印象があります。没個性とも言えるかと思います。一方、フランスは個人主義の国で、人がどう思おうが『我が道を悪びれず行く!』。周りも個性を尊重する。ゆえに、自由な発想、創造性のあるプレースタイルが生み出されます。しかも、自信に満ち溢れ、見ていて美しい。サッカーなら、ミシェル・プラティニ、ジネディーヌ・ジダン、挙げればキリがない。僕は小さい頃から、日本風の『サッカー道』を歩みましたが、いつも監督から『チームプレーを優先しろ!』と叱られてきました。高校の東京選抜の候補だったものの、最終選考には落ちました。フランス人に生まれたら、現地ではごく普通のマインドセットだったのだろうなと思います。フランス人に生まれてサッカーをやってみたかったですね」

楽しみながら強くなる。そのためには、厳しい練習にも向き合う。結果、得したこともあるという。

「TV出演時や講演会の時に、オーディエンスの『印象に残る』人になるためのツカミが簡単にできることですね。MMAをやっていると言うと、とくに同年代の方々からですが、かなり驚かれますね。アメフト元日本代表の称号と、道場には感謝です」

とは言え、怪我のリスクの高い競技だ。TV出演などもあり社会的地位が高まり、会社での責任も増す現在、なぜMMAを続けるのだろうか?

「逆説的ですが、地位が高まり、余裕ができたから続けられるのです。若い頃は、がむしゃらに24時間、金融マーケットや経済を追い続けていました。今はそんな無茶なことはしなくても、経験値が上がっているので、6時間も寝れば、市場の嵐に十分対処できるようになりました。ゆえに、余暇の時間をMMAに使うことができるのです」

取材中、会員諸氏から、道場内のアマチュア最強という評価も聞こえてきた。

「そんなありがたい評価が本当なら嬉しいです。正直言うと、今は自分が強くなることよりも、若手の会員さんが強くなってくれることに喜びを感じます。上を目指す、プロを目指す若い子の登竜門、手強い番人でありたいと思っています。そのためには、強さを維持しないとなりません。ゆえに老体に鞭打って練習しています」

競技は変わり、自分が頂点を目指すことから、後進の指導への役割も変わってきたようだ。ともあれ、燃え尽きには程遠く、心身両面での充実が伝わってくる。生きている限り、何かの身体活動を続けていくのだろうか?

「MMAの後のスポーツはまだ考えていませんが、体が動く限りは続けるでしょう。MMA引退後も、競技性のあるスポーツを10年はやりたいですね。生きていればの話ですがね。もう57歳ですから10年後は死んでいるかもしれない年齢ですもんね(笑)」

「モーニングサテライト」のアナウンサーたちと
特番の出演者たちと

最後に、広く「鍛える」ことに関して、若い世代へのエール、メッセージを。

「競技スポーツで上を目指している選手にしか当てはまらないかもしれませんが、いい選手になりたければつねに『考える』ことが大切だと僕は思います。僕はアメフトでもサッカーでも体操でもMMAでも、携わっているスポーツの動きを『合理的』に『美しく』するため、荒唐無稽な必殺技や実践的な動きを、つねに考えてきました。コーチに教えてもらうよりも、まず自分の頭で考えるクセをつけて下さい。母校アメフトのコーチをやっていた時には『考えろ!』しか言わなかった気がします。フィジカルがどんなに強くても、『脳』と『筋肉』の連動性が低い選手は、美しくないんですねー。『美しさ』を得るためには、考え続けることです。自分で考え尽くして、答えをひねり出すこと、これは競技スポーツを悲しいながら引退した後でも、社会人としてのパフォーマンスを高めてくれるとてつもない武器になると思います」

知力と体力。この2つをともに高めたことで、現在の松波さんがあるのだろう。何歳であれ、年齢を理由にするのは、大半は言い訳だろう。松波さんほどの高い身体能力がなくとも、考え、鍛えることで、様々な機能が維持され、さらには向上する。松波さんは、それを実践し、証明し、後進に伝え続けている。

★VITUP! アンケート★

【はじめたきっかけ】
そこに山があったから

【プラスになったこと】
人間が丸くなった

【好きな種目/競技と理由】
アメリカンフットボール:戦略、フィジカル、全てが究極のスポーツだと思うから
MMA:美しいから。とくに打撃の駆け引きと戦略

【モチベーションの保ち方】
若者にもまだ負けない心技体の維持

【やる気が出た一言】
「勉強になりました」
僕は若者に偉そうにアドバイスしますが、“自分が弱いと聞いてもらえない⇒強くならなければ!”というマインドセットで、やる気が出るのです。その結果「勉強になりました」と言われるのは嬉しい。アメフト現役の頃は、やる気が出た一言は「松波はバケモンだ!」とか「松波の守るゾーンは狙いたくない」などでした。

【トレーニングに求めること】
合理性

【これからの目標】
若者の目標になること

 

取材・文・写真/木村卓二、写真提供/松波俊哉、取材協力/ALLIANCE