なぜ人は筋肉に魅せられるのか?【石井直方のVIVA筋肉! 第6回】




    “筋肉博士”として知られる石井直方先生が、経験と最新情報に基づいて筋肉とトレーニングの素晴らしさについて発信する連載。第6回は命をつなげる本能と強さの関係です。

     

    「強さ」や「大きさ」が異性を引き付ける

    筋肉を鍛えるという行為は、太古の時代から人間社会の中で確立されていました。彫刻や絵画になっているギリシャ神話の神々を見ても分かるように、いつの時代からか、筋肉を鍛えることが美学の一つとして浸透していたようです。

    これは考えてみると当然のことと言えるでしょう。あらゆる生き物にとって、「強い個体」であることは生きていく上で重要な要素。それは生存競争を勝ち抜いていく力であり、子孫を残す力でもあるので、その種の中で優秀な個体ということになるわけです。

    パートナーを選ぶ際にも、より強い個体と交わったほうが自分の遺伝子を未来に残しやすくなるので、オスがメスを引きつける要素の中にも「強さ」や「大きさ」などが含まれるのが普通です(中にはメスのほうがオスよりも大きな体をしていて強い場合もありますが)。これは原始的な生き物から人間に至るまで、基本的には同じです。

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    メスがオスを選ぶ基準も動物によって様々ではあります。たとえば鳥などは声や色の美しさが問われることが多いようです。クジャクなどはその典型でしょう。一見、強さとは無関係に思われがちですが、美しくいられることは血統や栄養状態が良いということであり、それが生きのびる強さを表わすことにつながります。

    人間に近いゴリラや類人猿になると、オスの強さは体そのものに表われるようになります。ゴリラは筋肉隆々で体が大きいほどボス的な存在になり、咬筋(噛む筋肉)や頭頂部の発達でも強いオスを見分けることができます。

    一方、メスも成長するほどにメスとしての機能が発達し、見た目もメスらしくなっていきます。やはり与えられた環境で生きていくための変化であることは言うまでもありません。多くの動物では単純な腕力やパワーはオスより劣りますが、優秀なオスをパートナーに持って子孫を残すための体が作られていくわけですから、それがメスとしての生きる「強さ」であると言えます。

    外観に性差が表われるのは、人間も同じです。ただ、現在の人間社会においては筋肉ばかり大きくなっても、それが生き抜く力に直結するとは限りません。むしろ頭の良さ、要領の良さなどが求められることも多いので、個体としての強さを考える場合も、いろいろな方面から総合的に判断する必要があります。ですから「好きなタイプ」を聞いてみても、じつに多様な意見が出てくるわけですね。

    とはいえ、自然界の生き物である以上、「強い肉体」を持っていることも重要な要素の一つであることは否めません。それ以外の条件がまったく同じであれば、弱い体よりも強い体のほうがより選ばれやすいと言えるでしょう。

    体の強さは外観に表われやすいので、外観が異性を引きつける魅力の一つであることも否めません。付き合ってみてから後悔したとしても、「一目ぼれ」というのは生き物として必然的なことだと言えるのです。

    強い肉体の一つの象徴である筋肉に憧れるのも、生き物としては当然のこと。そして、人間は他の動物にはない知恵によって筋肉を自力で強く大きくしていく手段を知ったので、太古の昔から筋トレを行なうようになったというわけです。

    さらに現在は、筋肉を鍛えるための合理的なテクニックも解明され、より多くの人が筋トレに取り組むようになりました。「運動するのが気持ちいいから」「健康のため」など、それぞれ動機があるとは思いますが、それは生き物としての本能に近い行為でもあると言えるのです。

    石井直方(いしい・なおかた)
    1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学・大学院教授。理学博士。東京大学スポーツ先端科学研究拠点長。専門は身体運動科学、筋生理学、トレーニング科学。ボディビルダーとしてミスター日本優勝(2度)、ミスターアジア優勝、世界選手権3位の実績を持ち、研究者としても数多くの書籍やテレビ出演で知られる「筋肉博士」。トレーニングの方法論はもちろん、健康、アンチエイジング、スポーツなどの分野でも、わかりやすい解説で長年にわたり活躍中。『スロトレ』(高橋書店)、『筋肉まるわかり大事典』(ベースボール・マガジン社)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など、世間をにぎわせた著作は多数。
    石井直方研究室HP

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