医師に聞く「睡眠の質を上げる12のコツ」【3月18日は睡眠の日】




3月18日は睡眠の日です。経済協力開発機構(OECD)の平均睡眠時間の調査によると、日本の睡眠時間は世界的にも短く、1日の平均睡眠時間が442分と2019年には最短水準になっています。眠れない、夜中に起きるなど睡眠の悩みを抱える人は年々増え、睡眠負債が社会課題です。一日に7時間以上寝るのが理想とわかっていても、仕事、家事、育児と忙しく睡眠時間を捻出するのが難しいのが現実です。睡眠時間を変えなくても睡眠の質を上げることで、昼間には心も体もイキイキし、生活の質が上がり、病気の予防にも繋がります。そこで内科医の山下あきこ先生に、睡眠の重要性と睡眠の質を上げるコツを聞いてみました。

■良い睡眠が、自律神経を整え、心と体をイキイキと


良い睡眠を取ると自律神経の働きが良くなって、心も体も調子が良くなります。自律神経は、胃腸、心臓、血管を動かし、汗や体温を調整し、体を一定の状態に保つ、司令塔のような働きをしています。

自律神経には、交感神経と副交感神経があります。

交感神経は活動するときに活発になり、筋肉を緊張させたり、心臓の鼓動を早くします。一方、副交感神経はダウンモードで家族と過ごしたり、お風呂でリラックスしているとき優位になります。体を休めて栄養を吸収するメンテナンスの時間ですので、筋肉や血管は緩み、胃腸は活発に働きます。

■自律神経が乱れる原因は?


自律神経が乱れることにより、肩こり、高血圧、糖尿病やうつ病などの生活習慣病が増えています。

自律神経が乱れる原因の一つは、交感神経が活発になり過ぎていること。例えば、昔狩りをしているときの人間は、数十分間緊張する程度でした。現代は仕事や人間関係で緊張状態が長くなり、交感神経を働かせ続けています。

二つ目には、副交感神経が活発になる深夜から朝にかけて、質の良い睡眠が取れていないこと。人間の体は、昼の光で交感神経が、夜の暗さで副交感神経が活発になります。現代では24時間常に光が灯せるので、太陽の動きや体内時計を無視した夜型の生活を続けていると、自律神経が乱れ、体調が悪くなります。

日中交感神経が過剰に働いている場合は、夜に副交感神経を働かせる時間、つまり睡眠の時間をしっかり取ることで一日のバランスが良くなります。また、免疫力アップにも繋がり、病気の予防にもなります。

■良い睡眠のためのホルモンって?

メラトニンとは睡眠の質を上げる重要なホルモンです。朝の過ごし方と栄養の摂り方が良い睡眠のポイントになります。メラトニンは「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンから作られます。セロトニンが良く分泌されると夜ぐっすり眠れて、昼間の幸福感も高まる嬉しいホルモンです。

<睡眠の質を上げる12のコツ>

①週末の寝溜めはNG。睡眠サイクルを一定に
寝る時間と起きる時間をなるべく一定にすると良いです。夜勤勤務や海外出張で睡眠サイクルがずれると、体のダメージに繋がります。できる限り睡眠サイクルを一定にしてみましょう。週末の寝溜めは、社会的時差ぼけと言われ体に良くありません。

②入浴は寝る1~2時間前が理想
体温変化が寝つきに影響します。寝る時間に向かって体温を下げていくと寝つきが良くなります。暖かいお風呂に入るなら、寝る1~2時間前に済ませておきましょう。寝る前ならば、ぬるめのシャワーがオススメです。寝室の温度は少し涼しめのほうが体温が下がります。

③スマホやテレビは寝る90分前までに
ブルーライトはメラトニンの分泌を抑制してしまうため、寝つきが悪くなります。パソコン、スマートフォン、テレビなどブルーライトを発生させるものは寝る90分前から消すのが理想です。至近距離でブルーライトが入るスマートフォンは特に注意が必要です。就寝前のSNSやネット検索は、さらに興奮や覚醒を促してしまうので、できるだけ止めましょう。夕方以降の自宅の照明を徐々に暗くしたり、ブルーライトカットめがねを活用するのもオススメです。

④アロマの香りも効果的。ラベンダーがオススメ
香りを認識する嗅神経は脳から直接出ており、香りがダイレクトに脳に伝わります。神経を鎮めるラベンダーは寝つきを良くします。香りを選ぶときは効能よりも自分が好きな香りを選ぶと良いでしょう。寝具や部屋にスプレーしたり、入浴剤、ハンドクリームを使うのもオススメです。

⑤寝室は真っ暗がベスト。子どもは明かりの下で就寝すると近視に
寝室はできれば真っ暗にするのが良いです。アイマスクをしても、皮膚が光を感じてメラトニンを抑制します。子どもの場合は、弱い光でも、点灯下の就寝は近視になる確率がアップします。子どもと同じ部屋で就寝する人は気をつけましょう。

⑥寝る姿勢は仰向けで
寝る姿勢は仰向けがオススメです。仰向けは、胸郭が開きやすく、全身の筋肉がリラックスしやすい体勢です。横向きでは、片方の肩や腕に重力がかかり背骨や歪みの原因になります。ただし、睡眠時無呼吸症候群の人は横向きのほうが、空気の通りが良くなります。

⑦朝に30分の太陽を浴びる
朝起きたら太陽光を浴びましょう。朝の太陽光がセロトニンを分泌し、入眠後はじめ90分の深い睡眠に有効です。特にオススメなのが6時~8時30分の間に太陽光を30分以上浴びること。晴れた日の屋外は、室内と比べて100倍以上の明るさがあるため、屋外に出るのがいいでしょう。難しいときには窓辺で過ごすのも有効です。目と皮膚の両方で光を浴びることがポイント。起きたら①カーテンを開ける、②洗濯物を干す、③窓際で朝食をとる、④通勤でひと駅歩く、などの工夫をしてみましょう。窓際で過ごす時には紫外線対策のUVケアも忘れずに。

⑧リズム運動をする
昼間に体を動かすことも重要です。特にリズム運動をするとセロトニンの分泌を促すためオススメです。運動はトレーニングと勘違いする人もいますが、激しい運動は不要です。①腹筋を使った呼吸瞑想、②ウォーキング、③トランポリン、④カラオケでダンス、⑤硬いものをよく噛む、⑥ゴルフの素振り、でも構いません。いつでもどこでも気軽にできる呼吸瞑想は特にオススメ。腹筋を縮めたり緩めたりする腹式呼吸を午前中にすると良いでしょう。リズム運動は寝る4~5時間前までに済ませましょう。就寝前のハードな活動は快眠には逆効果です。運動のやりすぎにも注意しましょう。

⑨カフェインは昼食後2時頃までがベター
カフェインはアドレナリンなどの分泌を促進させ、興奮や覚醒の作用があります。カフェインを飲んだ後、血液中で半分の濃度になるまで8時間かかります。体内に残っていると寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなります。つまり午後3時に飲んでも、11時頃まで残っているので、飲むなら昼食後2時頃までがベターです。

カフェインにはメリットもあります。朝飲めば目覚めが良く、日中の集中力や注意力をアップし、がん予防の効果も。飲むタイミングを考え上手に付き合いましょう。

⑩アルコールは摂りすぎない。週に2~3日の休肝日を
アルコールの摂り過ぎは睡眠の質に影響します。眠りの前半にはレム睡眠の状態が少なくなり、記憶の整理ができません。深酒した翌日に前日の記憶を失ったりするのはこれが原因です。寝はじめは深い睡眠になりますが、その後は浅い眠りが続き熟睡感が得られません。また、アルコールの利尿作用でトイレに目覚める確率が上がり、さらに眠りを阻害します。アルコールは摂取量をコントロールしたり、週に2~3日の休肝日を作りましょう。

⑪朝食でタンパク質を、夕食では葉物野菜を積極的に
幸せホルモンのセロトニンが多く含まれるタンパク質を朝食に、メラトニンが多く含まれる葉物野菜を夕食に摂りましょう。睡眠ホルモンのメラトニンは、セロトニンから作られ、セロトニンはトリプトファンから作られます。トリプトファンは体内では生成できない必須アミノ酸で、食事からこまめに摂取する必要があります。トリプトファンからメラトニンに合成されるまで時間がかかるので、朝しっかりと食べてトリプトファンを摂取し、寝る前のメラトニンを蓄えましょう。トリプトファンが豊富な食材は、大豆食品やナッツ、煮干し、麩、ゴマ、サバ、アジ、シャケ、卵などです。ビタミンB12と一緒に摂取すると、体内でメラトニンにスムーズに合成できます。睡眠ホルモンであるメラトニンは白菜、キャベツ、レタス、ハムなどに多く含まれます。これらは合成する必要がないので夕食での摂取でも大丈夫です。

朝食は、ご飯に豆腐の味噌汁、納豆や鮭に卵があると理想です。忙しい朝には、トリプトファンとビタミンB6が多く含まれるバナナでも代用できます。夕食には、葉物野菜を多く取り入れ、糖質が多く含まれる甘いものやご飯、アルコールなどの摂取を減らすことで、血糖値の変動を抑え、安定した眠りにすることができます。

⑫ボディスキャンで寝つきを良く
ボディスキャンとは体の感覚に注意を向ける方法です。寝る前に行うと寝つきが良くなります。身体の各部分の感覚をありのままに観察していく、マインドフルネス瞑想のひとつになります。

12の項目のうち、まずはできるところから始めると良いでしょう。私が絶対にしないことは、寝室にスマホを持ち込まないことです!

【監修:山下あきこ先生】

医学博士、内科医、神経内科専門医、抗加齢医学専門医。2016年に株式会社マインドフルヘルスを設立。アンチエイジング医学、脳科学、マインドフルネス、コーチングを取り入れたセミナーやweb情報配信サービスを提供し、生活の中で賢い選択を習慣化できるよう支援している。

情報提供:株式会社協和  ブランド名「fracora(フラコラ)