筋肉も“おなかいっぱい”になる!?【石井直方のVIVA筋肉! 第24回】




“筋肉博士”石井直方先生が、最新情報と経験に基づいて筋肉とトレーニングの素晴らしさを発信する連載。今回はタンパク質の摂り方について解説します。

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タンパク質を摂る目安は筋トレ後30分以内
しかし摂れば摂るほどいいわけではない

前回に続き、食事のヒントになる情報をご紹介したいと思います。

まず筋肉を育てる上で、1日にどのくらいの量のタンパク質を摂取すればいいか。
これは体重(キログラム)をグラムに変えた値の1.5~2倍(体重60キロの人なら、90~120グラム)を基準と考えておけば間違いありません。

より高い効果を求めるのであれば、「ロイシン」というアミノ酸の摂取をオススメします。ロイシンはタンパク質の合成を高め、なおかつ分解を抑制する働きを持つことがわかっているからです。
最近は「ロイシン配合」を謳い文句にしたプロテインやサプリメントなども増えてきているので、チェックしてみてください。

続いて、タンパク質を摂るタイミングについて。
「筋トレをしたら、なるべく早くタンパク質を摂ったほうがいい」と、よく言われます。これはその通りで、トレーニング後はタンパク質の合成が高まっているので、そのタイミングでタンパク質を補給すると筋肉を育てる上でプラスになります。
その効果はとくに高齢者ほど顕著で、筋トレ後30分以内にタンパク質を摂ると合成が高まりやすいという明確な実験データもあります。
「早く摂ったほうがいい」というのは若い人も同じと考えられます。一つの目安として「30分」を意識するといいでしょう。

1日のタンパク質の量については前述しましたが、1回に摂る量はどのくらいが望ましいのでしょうか。
私の研究室にいた学生がその研究を行なったことがありますが、タンパク質は「摂れば摂るほどいいわけではない」ことがわかりました。あるレベルに達すると合成は頭打ちになり、それ以上タンパク質を摂っても変化が起こらないようです。
これは通常の食事も、筋トレ後も同じでした。
ただし、私たちの実験はネズミを使った研究の話です。ヒトを対象とした実験はカナダの研究グループが報告しています。

1回の摂取で上限値となるタンパク質の量は、約20グラム。
これ以上のタンパク質を摂取しても体には一度吸収されますが、基本的に筋肉の材料にはならず、エネルギー源として消費されてしまうようです(ただし、高齢者の場合は上限値がもっと高くなり、40グラム前後までは合成が上がっていくようです)。
20グラムであれば普通の食事でも補える程度の量。とくにステーキやチキンなどをたくさん食べなくても、卵、納豆、魚などの十分ということになります。

タンパク質が上限値に達した状態は「マッスルフル」と名づけられました。“筋肉のおなかがいっぱい”という意味です。
その程度の量でいいなら、市販のプロテインを飲む必要がないじゃないか、という声が聞こえてきそうですね。
そんなことはありません。プロテインは20~30グラムのタンパク質を手軽に摂ることができる便利な栄養食品なので、「トレーニング後30分以内」といった条件を満たすのに適しています。また、1回の摂取で必要なタンパク質は20グラムだとしても、1日トータルでは100グラム前後~それ以上のタンパク質を摂取したほうがいいわけですから、プロテインを活用すればより効率的な体づくりをすることができるでしょう。
ただ、トレーニング後に無理に“大量の”プロテインを補給する必要はなさそうです。

石井直方(いしい・なおかた)
1955年、東京都出身。東京大学理学部卒業。同大学大学院博士課程修了。東京大学・大学院教授。理学博士。東京大学スポーツ先端科学研究拠点長。専門は身体運動科学、筋生理学、トレーニング科学。ボディビルダーとしてミスター日本優勝(2度)、ミスターアジア優勝、世界選手権3位の実績を持ち、研究者としても数多くの書籍やテレビ出演で知られる「筋肉博士」。トレーニングの方法論はもちろん、健康、アンチエイジング、スポーツなどの分野でも、わかりやすい解説で長年にわたり活躍中。『スロトレ』(高橋書店)、『筋肉まるわかり大事典』(ベースボール・マガジン社)、『一生太らない体のつくり方』(エクスナレッジ)など、世間をにぎわせた著作は多数。
石井直方研究室HP